恋も料理もじっくり弱火で

 そうしてスクロールしていた柚葉の視線は、ある文字を見つけた瞬間、吸い寄せられるようにぴたりと止まった。

『調理部』

 その三文字だけが、まるでスポットライトを浴びたかのようにきらりと光って見えた。

(調理部……!)

 料理を作る部活。それはつまり、どういうことか。

(絶対、放課後においしいものが食べられる……!)

 期待で胸が一気に高鳴る。
 新しいレシピに挑戦して、みんなでわいわい味見をして。こんがり焼き色のついた甘いマドレーヌ、オーブンから出てきたばかりのふわふわのパン、ホワイトソースがぐつぐつと泡立つ焼きたてのグラタン。
 脳内に広がるあまりにも完璧なごちそうのフルコースに、柚葉の頬はだらしなく緩んでいった。

「ちょっと、柚葉?」

 隣の席から、美波が怪訝そうな顔で覗き込んできた。

「さっきからプリント見つめたまま、すごいニヤけてるよ。何処か気になる部活でもあった?」
「うん!」

 柚葉はハッと我に返ると、迷いなくプリントのその一点をビシッと指差した。

「私、調理部に見学に行く!」
「えっ、柚葉って料理できるの?」

 すかさず斜め前の席から真帆も振り返る。その問いに、柚葉は胸を張って即答した。

「ううん、全然!」
「じゃあ、なんでまた調理部?」

 不可解そうに首を傾げる二人を前に、柚葉はこれ以上ないほどの満面の笑みを浮かべ、堂々と本音を炸裂させた。

「だって、美味しいものがたくさん食べられそうだから!」

 一瞬、周囲の会話のトーンがすっと落ち、教室が静まり返る。
 柚葉は自分が何かおかしなことでも言ってしまったのかと目を瞬かせるが、それも束の間。

「あはははっ!」
「ちょっと、何その理由!?」

 結菜と真帆が同時に吹き出し、お腹を抱えて笑い出した。

「普通そこは『花嫁修業のため』とか『お菓子作りが上手になりたいから』じゃないの?」
「私は食べる専門なの!」

 微塵もブレずに言い切る柚葉に、二人は降参したように肩を竦める。
 出会ってまだ間もない二人ではあるけれど、もう十分に柚葉の食いしん坊っぷりは理解していた。
 いや、理解せざるを得ないという方が正しいのかもしれない。

「まあ、いかにも柚葉らしい動機だけどね」
「でもさ、もし本当に部活で試食とかあるなら、私らの分もキープしといてよ?」
「もちろん!  美味しいものはみんなでシェアしなきゃね!」

 柚葉は力強く親指を立てて、にこりと笑った。