恋も料理もじっくり弱火で

 秋月の言葉は信じられないくらい優しくて、胸の奥の冷たい穴がみるみるうちに温かい何かで満たされていく。
 でも、あまりにも心が容量オーバーを起こしてしまったせいで、柚葉の思考回路はまたしても妙な方向へと全力疾走を始めてしまった。

「先輩が作るご飯を毎日食べられるお嫁さんは、世界一幸せなんだろうなぁ……」

 それは、純粋な羨望と、ちょっぴりの切なさが混ざった呟きだった。
 毎日先輩の料理で心を埋めてもらえる未来の誰かを想像して、胸の奥がキュッと痛む。――が、それを聞いた秋月の身体が、一瞬でガチガチに硬直した。

「……は?」
「あ、いや、私じゃなくてその、いつか先輩と結婚する人です!  あんなオムライスやアジフライを毎日食べさせてもらえるなんて、本当に羨ましいなって――」

 柚葉は至って大真面目に、自分の「依存先」になってくれると言ってくれた先輩の未来を心配していた。
 だが、そのあまりの、天を仰ぎたくなるほどの鈍感さに、秋月は深く、深い溜息を吐いた。呆れと、愛しさと、ほんの少しの絶望が混ざったような顔で、柚葉の肩を掴んでぐっと顔を近づける。

「……柚葉ちゃん」
「は、はい?」
「あんた、さっき俺がなんて言ったか分かっとる?」
「ええと、依存するなら食べ物じゃなくて先輩に、って……」
「そう。俺に依存していいって言うたと」

 秋月は耳の裏を真っ赤に染めながらも、今度は逃げることなく、一文字一文字を噛み締めるように言った。

「やから、その未来のお嫁さんは君やって言いよると」
「……え?」

 あまりの直球ストレートに、柚葉の頭の上が真っ白になる。
 みらいの、およめさん、きみ。

「ええっ!?  わ、私ですか!?」
「他に誰がおるんね。俺が毎日ご飯ば作って、笑顔にしたい相手なんて、最初からあんたしかおらん」

 ついに完全にキレ気味の、けれどこれ以上ないほど甘い告白を叩きつけられ、柚葉は茹で上がったタコのように真っ赤になった。

「だ、だって、お嫁さんって……それって、けっ、結婚……!?」
「今はまだ早いけんど、いずれはってこと。だから責任取ってねって言うたの、柚葉ちゃんの方やけんね」

 秋月は意地悪そうに口角を上げると、まだパニックを起こしている柚葉の額に、自分の額をコツンと優しく合わせた。至近距離で見つめ合う二人の呼吸が重なる。

「一生かけて、あんたの心の穴も胃袋も、俺の料理でいっぱいにしちゃる。……覚悟はできた?」

 夕闇が完全に公園を包み込む中、柚葉はもう、自分の心臓の音を誤魔化す言葉を何も持っていなかった。ただ、深く深く頷いて、先輩の優しい腕の中に再び飛び込むことしかできなかった。