恋も料理もじっくり弱火で

 休日の朝。
 窓から差し込む柔らかな日差しの中、柚葉は鏡の前で何度も自分の服を見比べていた。

「これで変じゃないよね……?」

 白いブラウスに淡いベージュのスカート。お気に入りの小さなショルダーバッグを肩に掛けると、鏡の中の自分へ向かって小さく頷いた。
 今日は調理部の活動ではない。秋月と二人きりで、街へ出かける日だ。
 
 ――料理の勉強会。

 先輩からのメッセージにそう書かれていたわけではない。けれど、柚葉は表向きはそのつもりで約束をした。流石の秋月でも、何の前触れもなく二人で食事に行こうと誘うはずがない。
 調理部の部長として勉強をしに行くのだ。自分はそれに同行するだけだと言い聞かせる。
 と、そのはずだっったのに、一週間前に「恋」を自覚してしまった今の柚葉にとっては、これがどうしてもただの勉強会だと信じきれなかった。

(不自然な態度を取らないようにっ……落ち着いて、冷静に!)

 待ち合わせ場所の駅前時計台に着くと、すでに秋月が立っていた。
 私服姿の先輩を見るのは初めてだ。白いシャツに黒のカーディガンを羽織った姿は、学校の制服や調理服のときとはまた違う大人びた雰囲気で、すらりとした体格のせいか、行き交う人が思わず振り返るほど絵になっていた。
 ドクン、と胸が高鳴る。柚葉は緊張を振り払うように手を振った。

「秋月先輩、おはようございます!」
「あ……おはよう、柚葉ちゃん」

 振り返って柔らかく笑うその表情は、学校で見せる部長の顔より少しだけ穏やかで、何処かより年頃の男の子っぽかった。

「待ちましたか?」
「ううん、今来たところ。……その服、すごく似合っとるよ。可愛い」
「えっ!?  あ、ありがとうございます……っ!」

 まさかの直球な博多弁の褒め言葉に、柚葉は心臓が口から飛び出そうになり、慌てて俯いた。
 朝からこんな調子で、今日一日自分の身体が持つのか本気で心配になってくる。

「そんなに緊張せんでもいいとに」
「緊張しますよぉ!  部活じゃない日に、先輩と二人きりで会うの、初めてなんですから……」

 素直に白状して上目遣いに見上げると、秋月は一瞬だけ息を詰め、そっぽを向くようにして視線を逸らした。よく見ると、先輩の耳の裏もほんのり赤い。