「そういえば」
向かいの席で箸を置いた先輩が、ふと柚葉へ穏やかな視線を向けた。
「柚葉ちゃんは、今日が初めての体験入部だったよね」
「はい!」
口いっぱいにハンバーグを頬張ったまま、柚葉は元気に頷く。
テーブルに頬杖を着いて粒技の顔を覗き込んだ先輩は、微笑みつつも真剣な眼差しで柚葉を見た。
「実際にやってみて、どうだった?」
ゴクリと喉を鳴らして飲み込み、柚葉は一ミリの迷いもなく答えた。
「すっごく楽しかったです! 皆で作るのも、こうして食べるのも最高です!」
その言葉を聞いて、先輩は心底嬉しそうに目を細めた。
「それならよかった。歓迎した甲斐があったよ」
「それに――!」
柚葉は勢いよく身を乗り出した。その勢いに、先輩が少しだけ上半身を引く。
「先輩の作るご飯すっごく美味しいです!」
「え……」
一瞬、先輩の綺麗な切れ込みの入った目が丸くなった。
その反面、柚葉の目は川辺に転がる小石の如く真ん丸に見開かれる。
「本当に、心の底から感動しました! こんなに優しくて美味しいご飯、生まれて初めて食べました!」
濁りのない真っ直ぐな瞳で見つめられ、直球すぎるお褒めの言葉を叩きつけられた先輩は、一転して、耳の裏までほんのりと赤く染めて照れたように頭をかいた。
「ははっ、ならまた食べにおいで。いつでもあったかいご飯作って待ってるから」
少し困ったように視線を彷徨わせながらも、その口元には、隠しきれない愛おしそうな笑みが自然と浮かんでいる。
そして、先輩はふっと表情を和らげると、悪戯っぽく、けれどひどく優しく微笑んだ。
低く心地のいい声が、鼓膜を優しく揺らす。
その一言を聞いた瞬間、柚葉の胸の奥がふわりと温かくなった。
また、あの黄金色のオムレツを食べに来てもいい。
また、あのとろけるようなミートソースを味わえる。
また、この美味しい匂いで満ちた場所に堂々と来られる。
先輩がくれた言葉の裏にあるかもしれない、ほんの少しの特別な意味にはこれっぽっちも気づかないまま、柚葉はただ「美味しい未来」が約束された嬉しさだけで、胸をいっぱいに膨らませていた。
「はいっ!」
柚葉はこれ以上ないほど元気に大きく頷く。
「私、絶対また食べに来ます!」
「うん。待ってるよ」
何処か呆れ含みに、けれど眩しそうに穏やかに笑う先輩につられて、柚葉も満面の笑みを咲かせた。



