恋も料理もじっくり弱火で

 料理を作る楽しさ、誰かに食べてもらえる喜び、そして互いに試行錯誤しながら一品を作り上げる達成感。
 そんな温かな空気が流れる家庭科室は、柚葉が思い描いていた以上に、居心地のいい場所だった。

「先輩、塩、もう少し入れてみます?」
「うーん、それなら隠し味にケチャップをちょっと足したほうが、コクが出るかも!」

 あちこちの調理台から聞こえてくる部員達の声はどれも楽しそうで、ちょっとした失敗さえ笑い合える大らかな雰囲気に満ちている。
 初めて顔を合わせたばかりの一年生に対しても、先輩達は最初から気さくに接してくれた。
 包丁の正しい持ち方から、肉汁を閉じ込める絶妙な火加減まで、目線を合わせて丁寧に教えてくれる。ただ食べるのが専門だった柚葉にとって、目の前で魔法のように食材が形を変えていく時間は、驚きとワクワクの連続だった。

「よーし、全部完成ー!」
「じゃあ、皆で試食にしよう!」
『いただきます!』

 一斉に両手が合わさり、湯気の立ち上る料理を囲んで、自然と教室中に笑顔が零れ出す。

「美味しいっ!」
「これ、本当に自分達で作ったの?  お店の味みたい!」
「次はデミグラスソースを手作りして、もっと上手く作ってみたいよね」

 あちらこちらで弾む弾丸のような会話を聞きながら、柚葉も、自分で形を整えてじっくり焼き上げたハンバーグを箸で切り分け、そっと口へと運んだ。

「……美味しい」

 じわりと広がる肉汁を噛み締めながら、小さく呟く。
 プロが作った先ほどのオムレツのような、完璧な味では決してない。ちょっと裏返すタイミングが遅くて焼き色が濃くなってしまったし、付け合わせのポテトの形だってバラバラでいびつだ。
 けれど、自分で玉ねぎを刻んで涙を流し、皆で火加減を心配しながら焼き上げた料理には、これまでに食べたどんな高級なごちそうとも違う、何処か特別で、愛おしい美味しいがあった。

(調理部って、食べるだけじゃなくて、皆で作ることもこんなに楽しいんだ……)

 胸の奥が、出来たてのスープみたいにじんわりと温かくなっていく。
 ただ「美味しいものが食べたい」という不純な動機だけで扉を叩いた場所だったけれど、柚葉の心は、すでにこの温かな熱気の中にすっかり溶け込んでいた。