西側の大きな窓から差し込む夕方の斜めの大光が、彼の美しい横顔の輪郭を鮮やかに浮かび上がらせていた。
白磁のような肌に影を落とす、長い睫毛。
非の打ち所がないほど真っ直ぐに整った鼻筋。
一切の険しさが消えた、静かで、穏やかな唇のライン。
こうして無防備に目を閉じている彼を見つめていると、本当に、ただの綺麗な人間の男の子にしか見えなかった。
いや、それどころか、そこらの下手な芸能人やモデルなんかよりもずっとずっと綺麗で、神秘的ですらあるかもしれない。
「……」
新那は言葉を失い、ただぼんやりとその横顔を見つめ続けた。
静まり返った部屋。夕陽の光の中に、サイドテーブルの上の時計が刻むチクタクという規則的な秒針の音だけが、優しく響いている。
彼と二人きりで共有しているこの静かな時間が、どうしようもないくらいに、心地よかった。
すると、ふいにアールの長い睫毛が、微かにピクリと動いた。
新那がハッとする間もなく、ゆっくりと、カーテンが開くように彼の瞼が開かれる。現れた神秘的な琥珀色の瞳が、一ミリのブレもなく、真っ直ぐにベッドの上の新那を捉えた。
「――起きたか」
いつもの、少しだけ低くて、けれど今朝よりずっと耳に馴染んだ声。
新那は胸の鼓動を誤魔化すように、少しだけ悪戯っぽく笑ってみせた。
「……アールも、お昼寝なんてするんだね」
何気なく、揶揄うようにそう言ってみた。
すると、アールは珍しく口を噤んだ。
一秒。
二秒。
三秒。
いつもなら質問が終わる前にコンマ数秒でロジカルな正論を返してくる彼にしては、異常なほど、返答の出力が遅かった。
「……」
「アール?」
新那はそんな彼の態度が不思議に思って首を傾げる。
やがて、アールは自らの音声出力装置を慎重に駆動させるように、静かに口を開いた。
「――『寝る』とはどういう感覚なのか、及びシステム状況であるのか。それをインプットしようと試みていた」
「え?」
予想もしなかった斜め上の答えに、新那はパチパチと目を瞬かせた。
「どういうこと? インプットって……」
「新那は、よく寝る。授業中、放課後、そして本日も、多くの時間を睡眠に費やしている」
「皆寝るの! 人間だから!」
「だから、真似をした」
アールは、世界平和について語るかのような、あまりにも大真面目なトーンで言い切った。
部屋の中に、数秒間のシュールな沈黙が流れる。
「ふふっ……、あはははは!」
新那はついに耐えかねて、ベッドの上で思い切り吹き出してしまった。
「何それ! 睡眠の真似って! ……ふっ、くふふふ!」
「――睡眠の模倣。俺は生体組織を維持するための睡眠、および休止モードを必要としない」
アールは新那の爆笑に戸惑う風もなく、淡々と事実に即した説明を続ける。
「しかし、人間という有機生命体にとって、睡眠は極めて重要な、精神的・肉体的リセット行為であると学習した」
「だから……わざわざ私の隣で、目を閉じてやってみたの?」
「その通りだ」
アールは、コクリと小さく頷いた。
昨日から教えている「普通の話し方と仕草」。
気づけば彼は、本当に自然に、男の子らしく頷くようになったな、と新那はしみじみと思う。
「で? 実際に真似してみて、どうだった?」
涙を指先で拭いながら、何となく興味本位で聞いてみる。
すると、アールはほんの少しだけ視線を宙へと泳がせ、自らのシステムログを検索するように考え込んだ。そして。
「――分からない」
「分からないんだ」
「視界を遮断し、外部からの光刺激を九十九%カットして、ただ目を閉じていた」
「……それだけ?」
「それだけだ。脳波の低下も、意識の混濁も発生しなかった」
新那は、そのあまりにも生真面目なバグ報告に、またお腹を抱えて小さく笑った。
白磁のような肌に影を落とす、長い睫毛。
非の打ち所がないほど真っ直ぐに整った鼻筋。
一切の険しさが消えた、静かで、穏やかな唇のライン。
こうして無防備に目を閉じている彼を見つめていると、本当に、ただの綺麗な人間の男の子にしか見えなかった。
いや、それどころか、そこらの下手な芸能人やモデルなんかよりもずっとずっと綺麗で、神秘的ですらあるかもしれない。
「……」
新那は言葉を失い、ただぼんやりとその横顔を見つめ続けた。
静まり返った部屋。夕陽の光の中に、サイドテーブルの上の時計が刻むチクタクという規則的な秒針の音だけが、優しく響いている。
彼と二人きりで共有しているこの静かな時間が、どうしようもないくらいに、心地よかった。
すると、ふいにアールの長い睫毛が、微かにピクリと動いた。
新那がハッとする間もなく、ゆっくりと、カーテンが開くように彼の瞼が開かれる。現れた神秘的な琥珀色の瞳が、一ミリのブレもなく、真っ直ぐにベッドの上の新那を捉えた。
「――起きたか」
いつもの、少しだけ低くて、けれど今朝よりずっと耳に馴染んだ声。
新那は胸の鼓動を誤魔化すように、少しだけ悪戯っぽく笑ってみせた。
「……アールも、お昼寝なんてするんだね」
何気なく、揶揄うようにそう言ってみた。
すると、アールは珍しく口を噤んだ。
一秒。
二秒。
三秒。
いつもなら質問が終わる前にコンマ数秒でロジカルな正論を返してくる彼にしては、異常なほど、返答の出力が遅かった。
「……」
「アール?」
新那はそんな彼の態度が不思議に思って首を傾げる。
やがて、アールは自らの音声出力装置を慎重に駆動させるように、静かに口を開いた。
「――『寝る』とはどういう感覚なのか、及びシステム状況であるのか。それをインプットしようと試みていた」
「え?」
予想もしなかった斜め上の答えに、新那はパチパチと目を瞬かせた。
「どういうこと? インプットって……」
「新那は、よく寝る。授業中、放課後、そして本日も、多くの時間を睡眠に費やしている」
「皆寝るの! 人間だから!」
「だから、真似をした」
アールは、世界平和について語るかのような、あまりにも大真面目なトーンで言い切った。
部屋の中に、数秒間のシュールな沈黙が流れる。
「ふふっ……、あはははは!」
新那はついに耐えかねて、ベッドの上で思い切り吹き出してしまった。
「何それ! 睡眠の真似って! ……ふっ、くふふふ!」
「――睡眠の模倣。俺は生体組織を維持するための睡眠、および休止モードを必要としない」
アールは新那の爆笑に戸惑う風もなく、淡々と事実に即した説明を続ける。
「しかし、人間という有機生命体にとって、睡眠は極めて重要な、精神的・肉体的リセット行為であると学習した」
「だから……わざわざ私の隣で、目を閉じてやってみたの?」
「その通りだ」
アールは、コクリと小さく頷いた。
昨日から教えている「普通の話し方と仕草」。
気づけば彼は、本当に自然に、男の子らしく頷くようになったな、と新那はしみじみと思う。
「で? 実際に真似してみて、どうだった?」
涙を指先で拭いながら、何となく興味本位で聞いてみる。
すると、アールはほんの少しだけ視線を宙へと泳がせ、自らのシステムログを検索するように考え込んだ。そして。
「――分からない」
「分からないんだ」
「視界を遮断し、外部からの光刺激を九十九%カットして、ただ目を閉じていた」
「……それだけ?」
「それだけだ。脳波の低下も、意識の混濁も発生しなかった」
新那は、そのあまりにも生真面目なバグ報告に、またお腹を抱えて小さく笑った。



