箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい

 白球は春の青空を切り裂くようにして、綺麗な、そしてあまりにも大きすぎる放物線を描きながら――そのまま、隣のエリアで絶賛試合中だった男子のサッカーコートのど真ん中へと向かっていく。

 ストン、ぽすん。

 激しい砂煙を上げて転がったボールは、ちょうどディフェンスラインで激しく競り合っていた男子達の、すぐ足元へと滑り込んでいった。

「ご、ごめんなさーーいっ!  ボール取りまーす!」

 打ってしまった肩までのボブヘアの女子生徒が、顔を真っ赤にして慌てて男子コート側へと駆け出していく。
 髪をポニーテールのように揺らしながら必死に走る彼女の後ろ姿を、新那や莉子達もバットを握ったまま何となくハラハラしながら見守った。

「男子達、怒ったりしないかなぁ。試合の邪魔しちゃったし……」

 莉子が外野からいつの間にか新那のすぐ近くまで戻ってきて、心配そうに呟く。

「うーん、大丈夫じゃない?  わざとじゃないんだし……」

 新那がそう答えた、まさにその瞬間だった。
 サッカーコートの喧騒の中、転がってきた白いボールのすぐ近くにいた一人の男子が、スッと流れるような動作で膝を折ってしゃがみ込んだ。
 アールだった。
 彼は大きな手で砂にまみれた白球を、汚れを気にする素振りもなく拾い上げる。
 そして、息を切らせてようやく駆け寄ってきた他クラスの女子生徒の目の前で、真っ直ぐに背筋を伸ばして、それを両手で差し出した。

「どうぞ」

 新那の鼓膜に届いた彼の声は、昨日までの耳の奥が痛くなるような冷徹な機械音ではなかった。
 昨日の放課後、新那が教え込んだ「普通の、友達みたいな」ニュアンス。それが彼のAIの中でどう処理されたのか、今朝よりもほんの少しだけ、角が取れて柔らかくなった響き。
 他の誰も気づかない、けれど新那だけは確実に気づいた、アールの『変化』の兆しだった。

「あ、あ……ありがとう、ございます……っ!」

 女子生徒が、おずおずとアールの手からボールを受け取る。
 その瞬間、新那の目が確実に捉えた。
 ボールを受け取った彼女の白い頬が、まるで夕焼けの光を浴びたように、一瞬にしてポッと赤く染まったのだ。
 彼女は恥ずかしそうに、上目遣いでアールの整った顔立ちを見上げ、すぐに照れたように視線を地面へと逸らした。