箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい

 莉子が見事な逆・百発百中で教室を沸かせた後も、高校生活二日目のカリキュラムは容赦なく進んでいった。
 ネイティブの教師が早口で捲し立てる英語。
 一気に文字数が増えた現代文。
 これからの年間行事予定が配られたホームルーム。
 どれもこれもが、まだ使い慣れない硬い教科書の匂い、初めて聞く先生達の声、そして何処か落ち着かない新築のような教室の空気と混ざり合って、新那の脳のキャパシティをじわじわと削っていく。
 けれど、その適度な疲労感すら心地良く、気がつけば午前中の4時間はあっという間に駆け抜けていった。
 
 ――キーンコーンカーンコーン……。

 待ちに待った昼休みを告げるチャイムが、静まり返った校舎に鳴り響いた。
 途端に、教室を支配していたピンと張り詰めた空気がガラリと霧散する。
 一斉に椅子を引くガタガタという音。勢いよく立ち上がる気配。
「購買ダッシュするよ!」「学食行こ!」と、通路を挟んで友達を呼び合う声。
 誰もがこの瞬間を今か今かと待ちわびていたのだ。

「……全エネルギーを、使い果たした……」

 莉子が文字通り、机の上にドサリと突っ伏した。
 その燃え尽き方は、過酷な残業を終えて帰宅したサラリーマンのようでもある。

「莉子ちゃん、まだ半日だよ?  一日の半分しか終わってないよ」

 新那は思わず苦笑しながら、彼女の様子を伺う。

「高校って、なんでこんなに一時間が長くて疲れるの……」
「まだ二日目だから、緊張してるせいじゃない?」
「うう、本当そうであってほしい……。毎日これだったら私の脳みそが保たないよぉ……」

 莉子は机に片頬をぷにっと押し付け、完全に無防備な状態のまま力なく答えた。
 新那はその愛らしい姿に癒されながら、指定の通学鞄を開く。中から取り出したのは、少し大きめの、品のある二段の弁当箱だ。今朝、あの過保護な父親が、これまた過保護な専属シェフに命じて持たせてくれたものである。
 蓋を開けると、色鮮やかなパプリカの肉詰めや、芸術的な飾り切りの野菜など、彩り豊かなおかずが美しく並んでいた。

「……おぉっ!?」

 それを見た莉子の目が、獲物を見つけた猛獣のようにキランと輝いた。

「新那ちゃんのお弁当、なんかもの凄く豪華なんだけど!  料亭?」
「えっ、そうかな?  普通だと思うけど……」
「普通はそんな、デパ地下の高級惣菜みたいなキラキラしたおかず入ってないから!」

 莉子も文句を言いながら、自分の鞄からタッパーを取り出す。
 蓋を開けると、そこには少し形が歪で、ところどころ焦げ目のついた卵焼きが鎮座していた。

「あ、それ、もしかして莉子ちゃんが自分で作ったの?」
「うん!  といっても、卵焼きとお肉焼いて詰めただけだけどね」
「すごいなぁ。自分で朝からお弁当作るなんて、本当に尊敬しちゃう」
「えへへ、そんなに褒められると照れるなぁ」

 莉子は嬉しそうに、はにかんだような笑みを浮かべる。
 そんな、いかにも「女子高生の楽しいランチタイム」といった空気の遣り取りを交わしていると。