学年集会という名の、長く退屈な儀式を終えた新入生達は、ぞろぞろと波のように教室へと戻ってきていた。
本当に、絵に描いたような「長い話」だった。
お決まりの歓迎の言葉を述べる校長の話。
高校生としての心構えを説く学年主任の話。
現実的な数字を突きつけてくる進路指導の話。
そして、スカートの丈や頭髪について厳しく語る生活指導の話。
冷たい体育館の床に座らされている内に、気がつけば午前中の貴重な時間が半分近く過ぎ去っていた。
ようやくホームルームである一年B組の教室へ戻った新那は、自分の席に滑り込むようにして腰を下ろした。
「ふぅ……。初日から、座ってるだけで体力が削られる……」
小さく息を吐きながら、ブレザーの襟元を緩める。
すると、すぐ隣の席から地を這うような、消え入りそうな声が聞こえてきた。
「ねむい……。新那ちゃん、私もうライフがゼロよ……」
莉子だった。
言葉の通り、机の上にぐにゃりと軟体動物のように突っ伏しそうになっている。
まだ今日の正式な「一時間目」すら始まっていないというのに。
「ちょっと莉子ちゃん、早くない?」
新那は思わず苦笑する。
「だってぇ、先生達の話が長すぎるんだもん……。あんなの、超低周波の睡眠導入BGMだよ……」
「確かに長かったけどさ」
「私にとっては、余裕で二回は熟睡できる時間だったよ……」
「新入生代表みたいに堂々と寝ちゃ駄目でしょ」
莉子は「うーうー」と子犬のように唸りながら、小さな手でごしごしと目を擦った。その様子は、完全に寝不足で行き倒れかけた小動物のそれである。
きっと昨日の夜、初めての友達ができた興奮と、これからの高校生活への期待で、一晩中ベッドの中で目が冴えてしまっていたのだろう。
その気持ちなら、新那にも痛いほどよく分かった。だって、高校生活はまだ始まったばかりだ。これから待っている、きらめくような未知のイベントが多すぎるのだから。
やがて、チャイムの音と共に担任の先生が入ってきて、記念すべき高校最初の「一時間目」のチャイムが鳴り響いた。
記念すべき最初の教科は――数学。
とはいえ、入学二日目からゴリゴリの難問を解かせるわけではない。今日のところは、簡単な習熟度確認テストと、授業の進め方のガイダンスを兼ねた緩い内容だった。
「じゃあ、まずは小手調べだ。黒板のこの問題、各自ノートに解いてみろ」
チョークを小気味よく響かせ、先生が黒板に数式を書き記していく。
それを合図に、教室のあちこちから、パラパラと新品の教科書やノートを捲る小気味よい音が聞こえ始めた。
新那も背筋を伸ばし、お気に入りのシャープペンを握ってノートに向き合う。
黒板に書かれた数式を睨む。そこまで突飛な応用問題ではない。中学三年間の地盤が固まっていれば、スムーズに導き出せる復習問題だ。
新那は数分も経たないうちに、サラサラと最後の答えまでを書き終えた。
ふと、おせっかいとは思いつつも、隣の席の様子へと視線を向ける。
そこには――。
「……」
シャーペンを握ったまま、彫刻のように静止している莉子の姿があった。
問題用紙と激しく睨めっこしているポーズだけは一丁前だが、その長い睫毛は不自然なほど規則正しく上下し、明らかに意識の船がどこか遠くの宇宙へと旅立ちかけている。
「……莉子ちゃん」
「んぇっ!? はいっ、起きてるっ、起きてますっ!」
「分かりやすすぎるって。寝てたでしょ」
「寝てないよぉ、ちょっと脳内で数式のゲシュタルト崩壊が起きてただけだよぉ……」
寝ている人間ほど、自分の覚醒を強く主張するものだ。
新那は呆れ半分、可愛さ半分で苦笑した。
本当に、絵に描いたような「長い話」だった。
お決まりの歓迎の言葉を述べる校長の話。
高校生としての心構えを説く学年主任の話。
現実的な数字を突きつけてくる進路指導の話。
そして、スカートの丈や頭髪について厳しく語る生活指導の話。
冷たい体育館の床に座らされている内に、気がつけば午前中の貴重な時間が半分近く過ぎ去っていた。
ようやくホームルームである一年B組の教室へ戻った新那は、自分の席に滑り込むようにして腰を下ろした。
「ふぅ……。初日から、座ってるだけで体力が削られる……」
小さく息を吐きながら、ブレザーの襟元を緩める。
すると、すぐ隣の席から地を這うような、消え入りそうな声が聞こえてきた。
「ねむい……。新那ちゃん、私もうライフがゼロよ……」
莉子だった。
言葉の通り、机の上にぐにゃりと軟体動物のように突っ伏しそうになっている。
まだ今日の正式な「一時間目」すら始まっていないというのに。
「ちょっと莉子ちゃん、早くない?」
新那は思わず苦笑する。
「だってぇ、先生達の話が長すぎるんだもん……。あんなの、超低周波の睡眠導入BGMだよ……」
「確かに長かったけどさ」
「私にとっては、余裕で二回は熟睡できる時間だったよ……」
「新入生代表みたいに堂々と寝ちゃ駄目でしょ」
莉子は「うーうー」と子犬のように唸りながら、小さな手でごしごしと目を擦った。その様子は、完全に寝不足で行き倒れかけた小動物のそれである。
きっと昨日の夜、初めての友達ができた興奮と、これからの高校生活への期待で、一晩中ベッドの中で目が冴えてしまっていたのだろう。
その気持ちなら、新那にも痛いほどよく分かった。だって、高校生活はまだ始まったばかりだ。これから待っている、きらめくような未知のイベントが多すぎるのだから。
やがて、チャイムの音と共に担任の先生が入ってきて、記念すべき高校最初の「一時間目」のチャイムが鳴り響いた。
記念すべき最初の教科は――数学。
とはいえ、入学二日目からゴリゴリの難問を解かせるわけではない。今日のところは、簡単な習熟度確認テストと、授業の進め方のガイダンスを兼ねた緩い内容だった。
「じゃあ、まずは小手調べだ。黒板のこの問題、各自ノートに解いてみろ」
チョークを小気味よく響かせ、先生が黒板に数式を書き記していく。
それを合図に、教室のあちこちから、パラパラと新品の教科書やノートを捲る小気味よい音が聞こえ始めた。
新那も背筋を伸ばし、お気に入りのシャープペンを握ってノートに向き合う。
黒板に書かれた数式を睨む。そこまで突飛な応用問題ではない。中学三年間の地盤が固まっていれば、スムーズに導き出せる復習問題だ。
新那は数分も経たないうちに、サラサラと最後の答えまでを書き終えた。
ふと、おせっかいとは思いつつも、隣の席の様子へと視線を向ける。
そこには――。
「……」
シャーペンを握ったまま、彫刻のように静止している莉子の姿があった。
問題用紙と激しく睨めっこしているポーズだけは一丁前だが、その長い睫毛は不自然なほど規則正しく上下し、明らかに意識の船がどこか遠くの宇宙へと旅立ちかけている。
「……莉子ちゃん」
「んぇっ!? はいっ、起きてるっ、起きてますっ!」
「分かりやすすぎるって。寝てたでしょ」
「寝てないよぉ、ちょっと脳内で数式のゲシュタルト崩壊が起きてただけだよぉ……」
寝ている人間ほど、自分の覚醒を強く主張するものだ。
新那は呆れ半分、可愛さ半分で苦笑した。



