箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい

 高校生活、二日目。
 昨日という嵐のようなプロローグを終えて、今日から本当の意味での学校生活が始まるのだ。
 ちゃんと時間割に沿った授業もあるし、莉子と一緒にお弁当を食べる昼休みもある。もしかしたら、昨日よりもっとたくさんのクラスメイトと、普通の話ができるかもしれない。
 そう考えると、朝のイライラなんて何処へやら、新那の気分は自然と上向きになっていた。

「そういえば……今日って、学校に着いたらまず何があるんだっけ?」

 新那がトーストをモグモグさせながら呟くと、待機モードだったアールが、待ってましたとばかりに流暢に答えを出力した。

「本日のスケジュールを提示します。午前中は始業オリエンテーション。一時間目は体育館において、学年主任による学年集会が行われます」
「……聞いてないけど」
「二時間目は各教室において、提出物の回収及び――」
「だから、聞いてないってば」

 新那は呆れ顔を作りながら、けれど、思わず小さくフフッと笑ってしまった。
 アールはそこでピタリと言葉を止め、少しだけ沈黙した。おそらく、自分のAIの中に組み込まれた会話アルゴリズムが、「聞いてない」と言われたことに対して【黙るべきか、それとも解説を続けるべきか】を必死に演算処理しているのだろう。
 そんな彼の、何処か人間臭い(実際はただのバグのようなものだが)迷いの姿が、今の新那には少しだけ可笑しかった。
 昨日までなら、ただの鬱陶しい監視の目でしかなかったはずなのに、不思議と今は違う。
 昨日、中庭で莉子が言っていた。『神条くんって、本当に面白いね』という言葉。その意味が、ほんの少しだけ分かったような気がした。

「――お嬢」
「何?」
「邸宅の出発予定時刻まで、残り十三分です」
「え、まだ十三分もあるじゃん。余裕だよ」
「危機管理において、タイムスケジュールへの『余裕』は最重要ファクターです。速やかな朝食の完食を要求します」
「はいはい、分かりましたよ、校則警察の次はタイムキーパーですか」

 軽口を叩きながら、新那は仕上げの牛乳をゴクゴクと飲み干した。
 大きな窓の外には、雲一つない、透き通るような五月の青空が何処までも広がっている。
 爽やかな春の朝。
 高校生活、二日目。
 この融通の利かないボディーガードと一緒なら、今日もきっと、昨日以上に騒がしくて退屈しない一日になる。
 手元のグラスを見つめながら、新那の胸の奥で、そんな確信に近い予感がトクンと心地よく跳ねていた。