その時だった。
――ガタンッ!!
静まり返った廊下に、突如として何かが激しく衝突したような、重く乾いた破裂音が響き渡った。
音源は間違いなく、立入禁止の黄色いロープのその向こう側、薄暗い闇の奥からだった。
「ひゃぅあ!?!?!?!?!?」
莉子が文字通り三十センチほど真上に飛び上がった。
新那も全身に電流が走ったかのように肩を激しく震わせる。
「な、ななな、何今のアラート!? 何の音!?」
「音波の解析を完了。固体同士の激突音です」
「そんなの分かってるから! 原因を言ってよ!」
恐怖のあまり、新那は思わずアールに向かって半狂乱で叫んでいた。
だが、当の機械人形は相変わらず眉一つ動かさず、涼しい顔で周囲の警戒を続けている。
さらに、追い打ちをかけるように――。
――ギィィィィィィィ…………。
今度は、古い木材がじわじわと肉を裂かれるように軋む、長い、長い音が闇の奥から這い寄ってきた。
渡り廊下の向こう。薄暗い旧校舎。時刻は逢魔が時、夕暮れ。人気のない、完全に孤立した空間。
ホラー映画であれば、次の瞬間に画面いっぱいに何かが現れる条件が、これ以上ないほど完璧に揃いすぎていた。
「無理無理無理無理! マジで無理死んじゃう!」
莉子が完全に涙目になりながら、新那のブレザーの袖を力まかせに引っ張った。
「帰ろう! 撤退! 命大事に!」
「賛成! 全面賛成!」
新那も限界だった。二人は打ち合わせたわけでもないのに、完全に同時に回れ右をして猛然と駆け出した。
リノリウムの廊下をなりふり構わず全力で走る。
階段を一段飛ばしでドタドタと駆け下りる。
曲がり角をドリフト気味に曲がる。
もう誰も、後ろなんて振り返りもしなかった。振り返ったら最後、あの曇った窓ガラスの向こうから、何かがこちらを覗き込んでいるような気がしてならなかったから。
「ま、待ってぇ新那ちゃん! 置いてかないで!!」
「待たない!! って、莉子ちゃん足速すぎ!!」
「だって私、すっごく怖いんだもん!」
「それはこっちのセリフだよ!」
結局、二人は心臓が口から飛び出そうになるのを抑え、校舎のガラス扉を激しく押し開けて外へ飛び出すまで、一歩も足を止めずに走り続けた。
夕風が吹き抜ける中庭の中央までやってきて、ようやく二人はガクリと膝に手を突いた。
「はぁっ……、はぁ……っ、死ぬかと……思った……!」
「はぁっ、ふぅっ……! も、模範的な、全力疾走、だったね……!」
ゼェゼェと肩で激しく息をする。
見上げれば、夕陽はもうだいぶ地平線へと傾き、校舎の窓ガラスを真っ赤な血のような色に染め上げていた。春の少し冷たい風が、汗ばんだ二人の前髪を優しく揺らしていく。
しばらくの間、誰も何も喋れなかった。ただ、荒い呼吸の音だけが静かな中庭に響く。
やがて、完全に酸素が行き渡った莉子の口から、小さく、妙な音が漏れた。
「……ぷっ」
莉子が突然、自分の口を手で押さえて吹き出した。
「ふふっ……あははは!」
それを見た新那も、張り詰めていた緊張が弾けたように、つられて声を上げて笑ってしまう。
「ちょっと、私達、いったい何をしてたんだろうね」
「本当だよ! 高校生になって、記念すべき最初の日に校内探検して、勝手に古い建物にビビって全力で逃げ出すなんてさ!」
「やってることが小学生と完全に一緒じゃん!」
二人は真っ赤に染まったお互いの顔を見合わせ、そして。
『あははははっ!!』
今度こそ、中庭中に響き渡るような大声で同時に笑い合った。
お腹が痛くなるほど笑っている内に、さっきまで脳裏を支配していた旧校舎の不気味な恐怖は、まるで嘘のように霧散していった。
――ガタンッ!!
静まり返った廊下に、突如として何かが激しく衝突したような、重く乾いた破裂音が響き渡った。
音源は間違いなく、立入禁止の黄色いロープのその向こう側、薄暗い闇の奥からだった。
「ひゃぅあ!?!?!?!?!?」
莉子が文字通り三十センチほど真上に飛び上がった。
新那も全身に電流が走ったかのように肩を激しく震わせる。
「な、ななな、何今のアラート!? 何の音!?」
「音波の解析を完了。固体同士の激突音です」
「そんなの分かってるから! 原因を言ってよ!」
恐怖のあまり、新那は思わずアールに向かって半狂乱で叫んでいた。
だが、当の機械人形は相変わらず眉一つ動かさず、涼しい顔で周囲の警戒を続けている。
さらに、追い打ちをかけるように――。
――ギィィィィィィィ…………。
今度は、古い木材がじわじわと肉を裂かれるように軋む、長い、長い音が闇の奥から這い寄ってきた。
渡り廊下の向こう。薄暗い旧校舎。時刻は逢魔が時、夕暮れ。人気のない、完全に孤立した空間。
ホラー映画であれば、次の瞬間に画面いっぱいに何かが現れる条件が、これ以上ないほど完璧に揃いすぎていた。
「無理無理無理無理! マジで無理死んじゃう!」
莉子が完全に涙目になりながら、新那のブレザーの袖を力まかせに引っ張った。
「帰ろう! 撤退! 命大事に!」
「賛成! 全面賛成!」
新那も限界だった。二人は打ち合わせたわけでもないのに、完全に同時に回れ右をして猛然と駆け出した。
リノリウムの廊下をなりふり構わず全力で走る。
階段を一段飛ばしでドタドタと駆け下りる。
曲がり角をドリフト気味に曲がる。
もう誰も、後ろなんて振り返りもしなかった。振り返ったら最後、あの曇った窓ガラスの向こうから、何かがこちらを覗き込んでいるような気がしてならなかったから。
「ま、待ってぇ新那ちゃん! 置いてかないで!!」
「待たない!! って、莉子ちゃん足速すぎ!!」
「だって私、すっごく怖いんだもん!」
「それはこっちのセリフだよ!」
結局、二人は心臓が口から飛び出そうになるのを抑え、校舎のガラス扉を激しく押し開けて外へ飛び出すまで、一歩も足を止めずに走り続けた。
夕風が吹き抜ける中庭の中央までやってきて、ようやく二人はガクリと膝に手を突いた。
「はぁっ……、はぁ……っ、死ぬかと……思った……!」
「はぁっ、ふぅっ……! も、模範的な、全力疾走、だったね……!」
ゼェゼェと肩で激しく息をする。
見上げれば、夕陽はもうだいぶ地平線へと傾き、校舎の窓ガラスを真っ赤な血のような色に染め上げていた。春の少し冷たい風が、汗ばんだ二人の前髪を優しく揺らしていく。
しばらくの間、誰も何も喋れなかった。ただ、荒い呼吸の音だけが静かな中庭に響く。
やがて、完全に酸素が行き渡った莉子の口から、小さく、妙な音が漏れた。
「……ぷっ」
莉子が突然、自分の口を手で押さえて吹き出した。
「ふふっ……あははは!」
それを見た新那も、張り詰めていた緊張が弾けたように、つられて声を上げて笑ってしまう。
「ちょっと、私達、いったい何をしてたんだろうね」
「本当だよ! 高校生になって、記念すべき最初の日に校内探検して、勝手に古い建物にビビって全力で逃げ出すなんてさ!」
「やってることが小学生と完全に一緒じゃん!」
二人は真っ赤に染まったお互いの顔を見合わせ、そして。
『あははははっ!!』
今度こそ、中庭中に響き渡るような大声で同時に笑い合った。
お腹が痛くなるほど笑っている内に、さっきまで脳裏を支配していた旧校舎の不気味な恐怖は、まるで嘘のように霧散していった。



