長かった入学式が、割れるような拍手と共にようやく幕を閉じた。
体育館の重厚な扉が開かれると、新入生達はそれぞれのクラスのプラカードを掲げた担任教師の誘導に従い、ぞろぞろと新しい校舎へ向かって歩き出す。
新那もまた、まだ慣れないローファーの硬さに足元を覚束せながら、人の流れに混ざって廊下を歩いていた。
――そして、その後ろには、当然の権利を主張するようにカツン、カツンと一定の距離を保つアールの姿がある。
もう驚かない。驚く体力すら、あの長すぎる校長先生の話で消費し尽くしてしまった。驚きたくもないし、ツッコミを入れたくもない。
ただ、この異常極まりない現実を、自らの輝かしい高校生活として受け入れたくないだけだった。
「……はぁ、切り替えよう。まずは自分の席、自分の席」
案内された「一年B組」の教室へと足を踏み入れる。
木製の手垢のついていない机が整然と並ぶ教室内で、新那は黒板に張り出された座席表を頼りに自分の居場所を探した。
窓際から二列目。前から三番目。
「あ、ここかぁ……」
机の端に自分の受験番号が貼られているのを確認し、新那は小さく息を吐いた。
位置としては悪くない。黒板はちょうど見やすい角度だし、左手を見れば大きな窓から校庭の満開の桜がよく見える。お世辞にも最悪とは言えない快適な特等席に、どんよりと沈んでいた新那の気分も、ほんの少しだけ持ち直した。
だが、自分の机の荷物置きに鞄をかけようとした、その瞬間。
何気なく視線が、自分の席の「真後ろ」の机に貼られた名札へと向いた。
――そこに印刷されていた文字を見て、新那の身体は完全に硬直した。
『神条零』
やけに見覚えのある苗字だ。名前は知らないが、偶然にしてはやけにできている。
言うまでもなく、新那の人生において一度も聞いたことのない名前だ。けれど、あまりにも安直すぎるその名前に込められた「R-01(アールゼロワン)」の響き。
そして、この名札を用意した犯人の、最高にドヤ顔をしている父親の顔が、鮮明に脳裏をよぎる。
新那はロボットの関節のように、ギギギ……と恐る恐る首を後ろへと振り向かせた。
――案の定だった。
そこには、皺一つないブレザーを着こなしたアールが、我が物顔でその席の横に直立不動で立っていた。
「……パパ、本当にやりやがった……」
「何がでしょうか、お嬢」
「何がでしょうか、じゃないよ! なんで、なんでアールが私の真後ろの席にいるの!」
「学園の学籍データベース上において、当機の登録ネームは『神条 零』として処理されています。よって、指定された座席に配置されるのは、極めて論理的な結果です」
正論だった。お父さんの権力によって書き換えられた、完璧なシステム上の正論。
新那はもう、言葉を返す気力すら失い、力の抜けた人形のように自分の机へとがっくりと突っ伏した。
体育館の重厚な扉が開かれると、新入生達はそれぞれのクラスのプラカードを掲げた担任教師の誘導に従い、ぞろぞろと新しい校舎へ向かって歩き出す。
新那もまた、まだ慣れないローファーの硬さに足元を覚束せながら、人の流れに混ざって廊下を歩いていた。
――そして、その後ろには、当然の権利を主張するようにカツン、カツンと一定の距離を保つアールの姿がある。
もう驚かない。驚く体力すら、あの長すぎる校長先生の話で消費し尽くしてしまった。驚きたくもないし、ツッコミを入れたくもない。
ただ、この異常極まりない現実を、自らの輝かしい高校生活として受け入れたくないだけだった。
「……はぁ、切り替えよう。まずは自分の席、自分の席」
案内された「一年B組」の教室へと足を踏み入れる。
木製の手垢のついていない机が整然と並ぶ教室内で、新那は黒板に張り出された座席表を頼りに自分の居場所を探した。
窓際から二列目。前から三番目。
「あ、ここかぁ……」
机の端に自分の受験番号が貼られているのを確認し、新那は小さく息を吐いた。
位置としては悪くない。黒板はちょうど見やすい角度だし、左手を見れば大きな窓から校庭の満開の桜がよく見える。お世辞にも最悪とは言えない快適な特等席に、どんよりと沈んでいた新那の気分も、ほんの少しだけ持ち直した。
だが、自分の机の荷物置きに鞄をかけようとした、その瞬間。
何気なく視線が、自分の席の「真後ろ」の机に貼られた名札へと向いた。
――そこに印刷されていた文字を見て、新那の身体は完全に硬直した。
『神条零』
やけに見覚えのある苗字だ。名前は知らないが、偶然にしてはやけにできている。
言うまでもなく、新那の人生において一度も聞いたことのない名前だ。けれど、あまりにも安直すぎるその名前に込められた「R-01(アールゼロワン)」の響き。
そして、この名札を用意した犯人の、最高にドヤ顔をしている父親の顔が、鮮明に脳裏をよぎる。
新那はロボットの関節のように、ギギギ……と恐る恐る首を後ろへと振り向かせた。
――案の定だった。
そこには、皺一つないブレザーを着こなしたアールが、我が物顔でその席の横に直立不動で立っていた。
「……パパ、本当にやりやがった……」
「何がでしょうか、お嬢」
「何がでしょうか、じゃないよ! なんで、なんでアールが私の真後ろの席にいるの!」
「学園の学籍データベース上において、当機の登録ネームは『神条 零』として処理されています。よって、指定された座席に配置されるのは、極めて論理的な結果です」
正論だった。お父さんの権力によって書き換えられた、完璧なシステム上の正論。
新那はもう、言葉を返す気力すら失い、力の抜けた人形のように自分の机へとがっくりと突っ伏した。



