箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい

 どれほどお洒落な制服を着ていようと、どれほど胸を高鳴らせていようと、やはり入学式という儀式は想像以上に退屈なもの。
 壇上でのぎこちない校歌紹介。
 地元の名士らしき人物による、何処かで聞いたような来賓挨拶。
 抑揚のない声で読み上げられる祝電の数々。
 そして、何十分続いているのかも分からない校長先生のありがたいお話。
 どれも新生活を始めるにあたって大切なものなのだろう。きっと、多分、おそらく。

(……長い、長すぎる……)

 新那は心の中で、誰にも届かない悲鳴を呟いた。
 厳格な式典の最中、腕時計に目を落として残り時間を測るわけにもいかない。
 ポケットの中のスマートフォンを取り出すなど、以ての外だ。新那に許された抵抗は、硬いパイプ椅子の上で、バレない程度にそっと体重の拠点を移すことくらいだった。
 耐えかねて、ちらりと右隣を見る。
 アールは、驚くべきことに一ミリの微動だにしていなかった。
 定規で測ったかのように美しく背筋を伸ばし、真っ直ぐ前方の壇上を見つめている。新那が見ている間、彼は一度も瞬きすらしていないように見えた。

「――ねえ、疲れないのかな……」

 あまりの静止ぶりに、ほとんど吐息に近い音量で小さく呟く。

「当機の駆動系は最高効率で制御されており、乳酸などの疲労物質を――」
「独り言、独り言だから。喋らないで」
「失礼しました。音声認識をミュートします」

 間髪入れずに、けれど極小の音量で返ってくる声。やっぱり、この中身は血の通っていないロボットなのだ。
 新那は小さく、肩を竦めて溜息を吐いた。
 その時だった。
 ふと、前方へと向けていた新那の視界の端に、奇妙な違和感が引っかかった。
 三列ほど前。右斜め前方に座っている、一人の女子生徒。
 肩の辺りまで切りそろえられた髪。少し小柄な体格の彼女は、さっきから何度も小さく頭を振り、額を片手で強く押さえている。

(……?)

 気になって凝視すると、開いたブレザーの隙間から見える首筋が、妙に青白い。
 呼吸も浅く、肩が不規則に上下している気がする。
 初めての環境への極度の緊張だろうか。それとも、この体育館の独特な熱気に当てられた体調不良だろうか。
 新那が「先生に言った方がいいのかな」と考え、腰を浮かせかけた、その瞬間。
 女子生徒の身体が、ぐらりと不自然に揺れた。