箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい

 赤く激しく点滅する認証ランプを見つめたまま、新那は唇を血がにじむほど強く噛み締めた。

「どうして……!」

 あと少しなのに。この壁一枚隔てたすぐ向こうに零はいる。確信があるのに、機械の冷徹なシステムが新那の手を阻み、どうしても届かない。
 やり場のない焦燥のまま拳で扉を叩いても、鈍く重い金属音が静かな通路に虚しく響くだけだった。

「零……!  お願い、開けてよ……!」

 叫んでも返事はない。胸の奥を雑に掻きむしるような焦りに、視界が涙でぶわっと滲む。
 その時だった。

 ――コツ、コツ、コツ。

 廊下の曲がり角の奥から、こちらへ向かってくる規則正しい足音が聞こえた。
 新那は咄嗟に涙を拭い、振り返る。
 白衣にフードで顔を隠した研究員が、タブレット端末の画面に目を落としたまま歩いてくる。
 研究員は第一開発室の前に立つと、ごく自然な動作で首から提げた専用のIDカードキーを端末へかざした。

 ピッ。

 あれほど頑なだった赤いランプが、あっけなく鮮やかな青へと切り替わる。

《認証完了。第一レベル・アクセスを許可します》

 電子音声と共に、ゴゴゴ……と重々しい油圧の駆動音が響き始めた。

 ――ウィィィン……。

 強固な黒い金属扉が、ゆっくりと左右へ割れていく。

(今しかない……!)

 新那は考えるより先に身体が動いていた。心臓の音が耳元で爆発する。
 開いた扉が閉まり始めるよりも早く、新那は隙間に滑り込むようにして研究室の中へ飛び込んだ。
 けれど、次の瞬間。
 新那の足は、床に縫い付けられたようにピタリと止まった。

「……え……」

 目の前に広がっていたのは、彼女が想像していた『パソコンや機材が並ぶ部屋』とはまるで違う、異様な光景だった。
 体育館ほどもある広大な白い空間。天井を突き破らんばかりにそびえ立つ巨大な中央演算装置。壁一面を埋め尽くす無数のモニター群には、異常な速度で幾何学的なデータグラフが走り続けている。青白い冷たい光を放つ無数の計器類。