時は瞬く間に流れ、文化祭当日まで後二日に迫った日の昼休みのこと。
昼休みを告げるチャイムが、キーンコーンカーンコーンと校舎中に鳴り響く。
さっきまで授業の緊張感に包まれていた教室は、一瞬にして堰を切ったような賑やかな空気へと変わった。
「っしゃ、お腹空いた〜!」
「購買急げ! 出遅れたら焼きそばパンなくなる!」
「女子ー、文化祭の買い出しの件だけどさぁ!」
文化祭を二日後に控えた教室は、いつも以上に浮き足立ち、熱を帯びている。
けれど、新那だけは、そのお祭り騒ぎの輪の中にどうしても入れずにいた。
「新那ちゃん?」
隣の席から、莉子が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「お弁当、食べに行こ?」
「あ……うん」
新那は弾かれたように慌てて、机の横に掛けていたお弁当袋を手に取る。
二人はいつものように、教室の窓際の席へと机を移動させた。
いつもなら、その席の少し後ろ――窓際の一番後ろの特等席には、当然のように零が座っているはずだった。黙って淡々とお弁当を食べながら、時々二人の他愛もない会話へ、絶妙にズレた正論を挟んでくる。それが、一学期からずっと当たり前だった二人の昼休み。
でも今日は、そこだけがぽっかりと不自然に空いていた。机の上には教科書もノートもなく、ただ夕前の日差しだけが虚しく木目を照らしている。
「いただきまーす!」
莉子は元気よく手を合わせる。新那も小さく「いただきます」と呟いて箸を持ったものの、胸が詰まってなかなか進まない。
「……ねぇ」
半分ほど唐揚げを食べ終えたところで、先に口を開いたのは莉子だった。
「神条君、大丈夫なのかな。……今日も、学校来なかったね」
新那の箸を持つ手が、ぴたりと止まる。
「うん……」
「風邪とか引いちゃったのかな? あんなに丈夫そうなのに」
「分かんない、私にも何も……」
昨日の朝、お父様から「用事がある」とだけ告げられて以来、本当に何も分からない。
家に帰っても零の姿はなく、父親は書斎に引きこもったまま。今朝になっても、キッチンには誰も立っていなかった。連絡すら取れない。理由も知らない。学校の誰もが、ただの「体調不良による欠席」だと思っている。
「一昨日の放課後まで、あんなに普通だったのにね」
莉子は卵焼きを器用に箸で突つきながら、不思議そうに首を傾げる。
「文化祭の劇の練習でも、相楽君にダメ出しされて元気そうだったし」
「……そうなんだよね。帰る時も、いつも通りだったの」
新那はぽつりと呟き、窓の外の青空を見つめた。
普通だった。むしろ、いつもよりずっと穏やかに、人間らしく笑っていた。
『無理なんてしないさ。お嬢が余計な心配をするくらい、分かっている』



