箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい

 神条グループ地下研究施設。
 分厚い金属製の自動扉が、シューッという静かな駆動音を響かせながら閉まった。
 外界の音は完全に遮断され、そこには白く無機質な、何処か現実感のない空間だけが広がっている。
 壁際に規則正しく並ぶサーバーラック、天井を這う無数の黒いケーブル。防塵のための冷却装置が発する低い駆動音だけが、部屋に一定のリズムを刻み続けていた。
 その中央に、零は静かに立っていた。
 まだクラスの皆と同じ、あの制服姿のままで。
 背筋を真っ直ぐに伸ばし、正面を見据えたまま主の言葉を待っている。
 ほどなくして、背後の自動扉が再び開いた。
 コツ、コツ、と革靴の音が一定の間隔で近づいてくる。振り返ってみれば、そこにいるのは神条孝允だった。
 周囲に控えていた白衣姿の研究員たちが、一斉に深く頭を下げる。

「社長」

 孝允は短く顎を引いてそれに応え、そのまま零のすぐ目の前で足を止めた。
 二人の間に、冷え切った沈黙が流れる。
 やがて孝允は、感情の起伏を一切排除した声で静かに口を開いた。

「神条零」
「はい」
「護衛任務、お疲れ様」

 ――その一言だけで、零は全てを悟った。
 今日、このタイミングでこの場所へ呼ばれた本当の理由。
 数日前、脳内通信のノイズ混じりに突きつけられたあの警告。
 そして、自分が何よりも恐れていた決定的な結末。
 零は僅かに視線を落とし、睫毛の影を落とした。

「……ありがとうございます」

 その返答を聞いた瞬間、孝允は意外なものを見るように僅かに目を細めた。

「以前のお前なら、ただ『任務完了を確認しました』と定型句を答えていただろうな」
「……」
「私に対して、自発的に礼を言うようになったか」

 零は答えない。否、答えるためのロジックが見つからなかった。
 その沈黙を肯定と受け取ったのか、孝允は静かに歩き出す。
 研究室の壁一面に設置された、巨大なマルチモニター。
 孝允が手元の端末を操作すると、そこへ一つの映像が映し出された。
 桜の舞う入学式。泥にまみれた体育祭。勉強会。夜空に大輪が咲いた夏祭り。そして、昨日の今日まで続いていた文化祭の練習。
 どれも彼が自覚せぬまま、衛星や街頭防犯カメラから吸い上げられていた詳細な監視記録だった。