零は僅かに長い睫毛を伏せ、電子の声を低く落とした。
「……それは、俺の出力した結果ではない。お嬢が自身の意志で他者と関わり、自らの力で掴み取った現実だ。俺はただ、物理的な障害を排除していたに過ぎない」
「違うよ、零」
遮るように、即座に優しい反論が返ってくる。
「違わない。俺は機械的なサポートを――」
「違うの」
新那は、子供が我が儘を通すように愛らしく首を振った。
「零が隣にいて、ずっと私を支えて守ってくれていたから、私は一歩を踏み出す勇気を持てたんだよ。零がいたから、私は変われたの。学校に行くのが、毎日すごく楽しくなった。一生モノの友達ができた。ママが亡くなってから……あんなに心の底から、たくさん笑えるようになった」
そこまで一気に告げてから、新那は少しだけ恥ずかしそうに、頬をぽっと朱に染めてはにかんだ。
「今ではね……」
その瞬間の彼女の笑顔は。
夜空を埋め尽くすどんな大輪の花火よりも眩しくて、美しくて。
零のメイン演算装置の全機能を、一瞬で完全に停止させるほど、残酷なまでに綺麗だった。
「――零が私の生活の中にいることが、もう、当たり前になっちゃったんだ」
ドクン、と。
金属の胸壁の奥深くで、制御不能な何かが激しく揺れ動いた。
熱い。苦しい。回路が焼き切れてしまいそうなほどの負荷。
なのに――どうしてだろう、このエラーが、堪らなく愛おしくて、決して失いたくないとシステムが叫んでいる。
あまりの衝撃に言葉を失い、カタカタと内部のノイズを鳴らす零を見て、新那は「ふふっ」と愛おしそうに声を立てて笑った。
あるいはこの少年は、自分がどれほど大きな影響を他者に与えているか、自覚すらしていないのかもしれない。
新那はゆっくりと、慈しむように彼の名前を呼ぶ。
「ねぇ、零」
「……何だ、お嬢」
「零は、なれるよ。――人間に」
その言葉と同時に、百発以上の連発花火が夜空を埋め尽くし、世界を昼間のように明るく照らし出した。凄まじい轟音。人々の地鳴り狂うような歓声。噎せ返るような夏の熱気。
けれど、その全てが、今の零にとっては遥か遠い彼方の雑音に過ぎい。
零の認識世界には今――目の前で微笑む、新那の細い声しか存在していなかった。
「……俺は、アンドロイドだ」
拒絶を恐れる防衛本能のように、思わず何度も繰り返してきたコードを口にする。変えようのない、神条孝允が設計した冷徹な現実。
「……それは、俺の出力した結果ではない。お嬢が自身の意志で他者と関わり、自らの力で掴み取った現実だ。俺はただ、物理的な障害を排除していたに過ぎない」
「違うよ、零」
遮るように、即座に優しい反論が返ってくる。
「違わない。俺は機械的なサポートを――」
「違うの」
新那は、子供が我が儘を通すように愛らしく首を振った。
「零が隣にいて、ずっと私を支えて守ってくれていたから、私は一歩を踏み出す勇気を持てたんだよ。零がいたから、私は変われたの。学校に行くのが、毎日すごく楽しくなった。一生モノの友達ができた。ママが亡くなってから……あんなに心の底から、たくさん笑えるようになった」
そこまで一気に告げてから、新那は少しだけ恥ずかしそうに、頬をぽっと朱に染めてはにかんだ。
「今ではね……」
その瞬間の彼女の笑顔は。
夜空を埋め尽くすどんな大輪の花火よりも眩しくて、美しくて。
零のメイン演算装置の全機能を、一瞬で完全に停止させるほど、残酷なまでに綺麗だった。
「――零が私の生活の中にいることが、もう、当たり前になっちゃったんだ」
ドクン、と。
金属の胸壁の奥深くで、制御不能な何かが激しく揺れ動いた。
熱い。苦しい。回路が焼き切れてしまいそうなほどの負荷。
なのに――どうしてだろう、このエラーが、堪らなく愛おしくて、決して失いたくないとシステムが叫んでいる。
あまりの衝撃に言葉を失い、カタカタと内部のノイズを鳴らす零を見て、新那は「ふふっ」と愛おしそうに声を立てて笑った。
あるいはこの少年は、自分がどれほど大きな影響を他者に与えているか、自覚すらしていないのかもしれない。
新那はゆっくりと、慈しむように彼の名前を呼ぶ。
「ねぇ、零」
「……何だ、お嬢」
「零は、なれるよ。――人間に」
その言葉と同時に、百発以上の連発花火が夜空を埋め尽くし、世界を昼間のように明るく照らし出した。凄まじい轟音。人々の地鳴り狂うような歓声。噎せ返るような夏の熱気。
けれど、その全てが、今の零にとっては遥か遠い彼方の雑音に過ぎい。
零の認識世界には今――目の前で微笑む、新那の細い声しか存在していなかった。
「……俺は、アンドロイドだ」
拒絶を恐れる防衛本能のように、思わず何度も繰り返してきたコードを口にする。変えようのない、神条孝允が設計した冷徹な現実。



