ズドォォォン、と地鳴りのような音が重なり、夜空へ次々に光の尾が駆け上がった。
周囲からは割れんばかりの歓声が上がり、無数の拍手が河川敷を包み込んだ。
けれど新那の耳には、それらの喧騒は全て遠い世界の出来事のように掠れる。
「私ね」
大輪の花火を見上げたまま、新那がぽつりと、心に溜めていたものを溢れさせるように呟く。
「初めて零が目の前に現れた時さ」
零は夜空から視線を外し、黙って彼女の横顔に耳を傾けた。
「パパに言われて、せっかく自由な高校生活が始まるっていうのに、これで全部台無しになっちゃうんだって勝手に絶望してたんだ」
自嘲気味な、けれど何処か懐かしむような苦笑混じりの声が花火の音にかき消される。
「ボディーガードなんていらない、目障りだって、ずっと心の中で反発してた」
「……ああ。最初の頃のお嬢の拒絶反応は、俺のセンサーも明確に感知していた」
「でしょ? だって、何処に行くにもずっと付いてくるし」
「護衛任務だ」
「空気は全く読まないし」
「状況の論理的判断だ」
「話し方も、ロボットみたいで変だったし」
「……」
「ふふ、今思えば、私ったら結構酷いこと考えてたよね」
零はあの日からのログを数ミリ秒で走査し、少しだけ考えるように眉を寄せた。
「いや。当時の俺のプロトコルを客観的に評価すれば……お嬢の指摘は、全て冷徹な事実だったと認識している」
「あはは、そこは認めるんだ」
張り詰めていた新那の肩から、すっと力が抜けて笑みが溢れる。
零もその柔らかな空気に引きずられるように、ふっと小さく笑った。
また一つ、夜空で大きな花火が弾ける。眩いばかりの純白の光が、二人の間に光の雨のように降り注いだ。
そして新那は、ゆっくりと、その光の中で言葉を続けた。
「でもね――」
その声は、夜風に溶けてしまいそうなほど、驚くほど優しかった。
「零が入学式の日に、貧血で倒れかけた莉子ちゃんを、あのすごい反射神経で助けてくれたから」
零の脳裏に、あの日の一幕が鮮やかに再生される。
埃の舞う体育館。崩れ落ちかける少女の身体。エラーを無視して伸ばした、自らの金属の腕。
「私は莉子ちゃんと友達になれたの。クラスの皆と自然に話せるようになったのも、この数ヶ月間、毎日たくさん笑えたのも」
新那は、夜空からゆっくりと顔を巡らせた。
誠実な眼差しで自分を映す、零の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「きっと、全部――零が隣にいてくれたからだよ」
周囲からは割れんばかりの歓声が上がり、無数の拍手が河川敷を包み込んだ。
けれど新那の耳には、それらの喧騒は全て遠い世界の出来事のように掠れる。
「私ね」
大輪の花火を見上げたまま、新那がぽつりと、心に溜めていたものを溢れさせるように呟く。
「初めて零が目の前に現れた時さ」
零は夜空から視線を外し、黙って彼女の横顔に耳を傾けた。
「パパに言われて、せっかく自由な高校生活が始まるっていうのに、これで全部台無しになっちゃうんだって勝手に絶望してたんだ」
自嘲気味な、けれど何処か懐かしむような苦笑混じりの声が花火の音にかき消される。
「ボディーガードなんていらない、目障りだって、ずっと心の中で反発してた」
「……ああ。最初の頃のお嬢の拒絶反応は、俺のセンサーも明確に感知していた」
「でしょ? だって、何処に行くにもずっと付いてくるし」
「護衛任務だ」
「空気は全く読まないし」
「状況の論理的判断だ」
「話し方も、ロボットみたいで変だったし」
「……」
「ふふ、今思えば、私ったら結構酷いこと考えてたよね」
零はあの日からのログを数ミリ秒で走査し、少しだけ考えるように眉を寄せた。
「いや。当時の俺のプロトコルを客観的に評価すれば……お嬢の指摘は、全て冷徹な事実だったと認識している」
「あはは、そこは認めるんだ」
張り詰めていた新那の肩から、すっと力が抜けて笑みが溢れる。
零もその柔らかな空気に引きずられるように、ふっと小さく笑った。
また一つ、夜空で大きな花火が弾ける。眩いばかりの純白の光が、二人の間に光の雨のように降り注いだ。
そして新那は、ゆっくりと、その光の中で言葉を続けた。
「でもね――」
その声は、夜風に溶けてしまいそうなほど、驚くほど優しかった。
「零が入学式の日に、貧血で倒れかけた莉子ちゃんを、あのすごい反射神経で助けてくれたから」
零の脳裏に、あの日の一幕が鮮やかに再生される。
埃の舞う体育館。崩れ落ちかける少女の身体。エラーを無視して伸ばした、自らの金属の腕。
「私は莉子ちゃんと友達になれたの。クラスの皆と自然に話せるようになったのも、この数ヶ月間、毎日たくさん笑えたのも」
新那は、夜空からゆっくりと顔を巡らせた。
誠実な眼差しで自分を映す、零の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「きっと、全部――零が隣にいてくれたからだよ」



