箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい

 最近は学校でも家でも、いつも莉子を含めた三人でいることが多かった。
 こうして改めて、お祭りの夜という特別なシチュエーションで二人きりになると、嫌でも彼の存在を意識してしまう。
 いつもより近くにある、浴衣に包まれた高い肩。大人の男性のような、完成された横顔。

「……今日は、本当に楽しかったね」

 沈黙の重さに耐えかねて、先にぽつりと口を開いたのは新那だった。

「ああ」

 零は静かに頷く。

「りんご飴も、びっくりするくらい甘くて美味しかったし」
「ああ」
「射的も、あんなにすごいの初めて見たよ」
「最後は店主に、蛇に睨まれた蛙のような顔をされたが」
「ふふ、当たり前だよ。あんなに景品落とされたら商売あがったりだもん」

 思わずクスクスと笑ってしまう。新那の笑い声につられるように、零もほんの少しだけ、形の良い口元を優しく緩めた。
 出会ったばかりの頃の彼なら、絶対にあり得なかった変化。
 ガラス細工のように繊細なその微笑みを見て、新那は胸の奥をチクリと突かれたような愛おしさを覚え、ふと呟いた。

「本当に……変わったよね、零」
「……?」

 零は不思議そうに視線を落とす。
 新那は夜風に乱れた一筋の髪を耳に掛けながら、河川敷の向こうの暗い水面を見つめて続けた。

「最初は、全然笑わなかったじゃん。表情筋が凍りついてるんじゃないかって思うくらい」
「そうだっただろうか」
「そうだったよ」

 新那は悪戯っぽく微笑んで、即答する。

「『護衛対象の安全を確認しました』とか、『それは任務の範疇外です』とか、『マスター、許可を求めます』とか……」

 少しだけ硬い、機械っぽい口調を真似してみせる。
 零は困ったように、僅かに眉の端を下げた。

「俺は、そんなに情緒のない話し方をしていただろうか」
「もっと酷かったよ。冷たいロボットそのものだった」
「そうか……」
「うん」

 新那はもう一度笑う。そして、夜の闇に溶けてしまいそうなほど、少しだけ切なくて優しい声で言った。

「でも――私、今の方がずっと好き」
「……っ」

 零の身体が、一瞬だけ微かに強張った。

「人間らしくなった、今の零の方が……ずっといいな、って」

 新那は何気ない感想のつもりで口にした。自分の隣にいる彼が、少しずつ心を通わせてくれることが、ただ純粋に嬉しかったから。
 けれど、零にとっては違った。その言葉がシステムにインプットされた瞬間、胸の奥のコアが、ドクンと不規則な熱を帯びる。