箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい

 河川敷には、すでに足の踏み場もないほど大勢の人が集まっていた。
 青々とした芝生の上にはカラフルなレジャーシートが幾重にも敷き詰められ、それぞれが夜空を見上げながら、今か今かとその瞬間を待ち侘びている。
 遠くのスピーカーからは、微かにノイズの混じったアナウンスが流れていた。――花火打ち上げ開始まで、あと十分。

「うわぁ、もうすぐだねぇ、ドキドキしてきた!」

 莉子が浴衣の袖をぎゅっと握り締め、子供のように弾んだ声で言う。新那も優しく微笑みながら頷いた。

「うん。本当に、もうすぐだね」

 川面を滑ってきた夜風が、ふわりと二人の浴衣の裾を揺らす。
 ちりん、と新那の耳元で髪飾りが涼しげな音を立てた、その時だった。

「――あれ?  もしかして、莉子?」

 背後から、不意にそんな声が聞こえた。

「へ?」

 莉子が目を丸くして振り返る。
 そこには、同じように浴衣を着こなした同年代の女子生徒が二人、驚いた顔で立っていた。

「やっぱり莉子だ!  すっごい久しぶり!」
「えっ、嘘!?  みーちゃんに、さっちゃん! なんでここにいるの?」

 どうやら中学時代の友人らしい。
 予期せぬ場所での久々の再会に、三人は一気に声を華やがせて盛り上がり始める。

「あ……!」

 ひとしきりはしゃいだ後、莉子はハッと思い出したように新那たちを振り返った。

「ごめん二人とも!  せっかく一緒にいるのに……!」
「ううん、気にしないで」

 新那は包み込むような笑みを浮かべた。

「ちょっとだけ、あっちでお話してきてもいい?  すぐ戻るから!」
「もちろん。せっかく会えたんだから、行っておいで」
「ありがとー!  新那ちゃん大好き!」

 莉子は満面の向日葵のような笑顔を咲かせると、友人達の元へパタパタと駆けて行った。
 女の子達の楽しげなはしゃぎ声が、人の波に飲まれて少しずつ遠ざかっていく。
 気がつけば、ざわめく大衆の中で、そこだけを切り取ったかのように二人きりの空間が残されていた。

「……」
「……」

 訪れる、静かな沈黙。
 周囲からは出店の賑やかな声や人々の笑い声が絶え間なく聞こえてくるというのに、何故か二人の間だけ、耳が痛くなるほど静かだった。
 新那は、なんだか急に落ち着かなくなって、浴衣の帯をそっと指先で弄った。