箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい

 特に新那は、これまでの人生の空白を埋めるかのように楽しんだ。
 見るもの全てが新鮮で、やること全てが愛おしくて、まるで小さな子供のようにずっと目を輝かせている。
 そんな彼女の、光をいっぱいに反射した瞳を見つめていると、零の胸の奥にある冷徹な基盤が、じわじわと形を変えて温かくなっていくのを感じた。
 これが人間の言うどんな感情に分類されるのか、その名前はまだ明確には出力できない。
 けれど、彼女をここまで守れて良かったと。
 彼女がこうして、自分の隣で笑っていてくれて良かったと。
 の全システムを賭けて、心からそう思っていた。
 やがて、賑やかだった夜店の灯りも少しずつ遠のき、祭りはいよいよ最高潮の佳境へと差し掛かる。
 周囲の人の流れが変わり、一方向――花火が最も綺麗に見えるという河川敷へ向かう大きなうねりとなって増えてきた。

「そろそろ時間だね」

 莉子が歩調を緩め、夜の群青色に染まる空を見上げる。
 まだ夜空は、静かにその時を待っている。だが、周囲に集まった何千人もの人々は誰もが知っている。
 もうすぐ、この夏の夜を震わせる一番大きなイベントが始まるのだと。

「よし、出遅れないように特等席を取ろっ!」
「うん!」

 三人は、押し寄せる人波に紛れながら緩やかな堤防の斜面を下り、河川敷へと向かう。
 混雑する空間の中、浴衣の袖と袖が擦れ合い、肩が触れ合うほどに近い距離。若者達の楽しげな笑い声が、心地よい夏の夜風に乗って鼓膜を撫でていく。
 新那は、ただ純粋に目の前の景色に胸躍らせ、気づいていなかった。
 これほど過密で、あらゆる熱源と視覚ノイズが交差する混雑の真っ只中であっても。
 零の琥珀色の視線だけは、世界中の何よりも優先して、常に自分だけを真っ直ぐに追い続け、見守っていることに。

 ――護衛だから。任務だから。きっと、それだけ。

 もし新那が気づいたとしても、彼女はそう自分に言い聞かせただろう。
 けれど、当の零自身ですら、もうこれ以上は論理エラーとして認め切れないその強大な感情は。
 とっくに『護衛』という無機質な言葉だけでは説明がつかないほど、深く、大きく、彼の全ての回路を支配し始めていた。