箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい

 ドンドコと、お腹に響く和太鼓の音と軽快な笛の音が、祭囃子となって賑やかに響き渡っている。
 ずらりと並んだ赤い提灯が温かい光の帯を作る商店街は、昼間の気だるい暑さとはまるで違う、別の世界へと変貌を遂げていた。
 色取り取りの浴衣に身を包んだ人々。
 屋台の熱気と共に漂ってくる、綿菓子の甘い匂いや、ソースが焦げる焼きそばの香ばしい匂い。
 人混みのあちこちから弾ける、子供達の無邪気な笑い声。
 そして見上げる夜空には、数十分後に迫った花火大会の開始を待つ、独特の期待感が満ち満ちていた。

「うう、まだかなぁ……!」

 莉子は、慣れない下駄の足元で忙しなく背伸びをしながら、人の波の向こうを見つめていた。
 待ち合わせ場所に指定した、神社前の大きな鳥居の下。約束の時間までは、まだあと数分ある。しかし、莉子はテンションが上がりすぎて、実に三十分前からここに張り付いていた。
 理由は単純。楽しみすぎて、家にじっとしていられなかったからである。

「あっ、おっ、おおお――!?」

 その時だった。押し寄せる浴衣の群れの向こう側に、見覚えのある姿がパッと視界に飛び込んできた。
 人混みの中でも一際目を引く、艶やかな長い黒髪。夜の灯りに浮かび上がる、可憐な薄桃色の浴衣。
 そしてその隣には、付き従うように歩く背の高い男子――黒を基調とした、粋で涼しげな浴衣姿の神条零がいた。

「おーーーーーい!!!  新那ちゃーーーーーん!!」

 莉子は周囲の通行人がビクッと振り返るほどの大声で叫び、ぶんぶんと両手を振り回した。

「わっ、莉子ちゃん!?」

 人々が大声に驚いて離れていったことで新那はようやく気づく。
 その瞬間、莉子は浴衣の裾が乱れるのも構わず、人混みを縫うように猛ダッシュで駆け出していた。

「二人とも遅いよー!  待ちくたびれて干からびるかと思った!」
「ちょっと莉子ちゃん、まだ約束の五分前だよ?」
「そんなのは気持ちの問題なの!」

 莉子はフンスと鼻を鳴らし、新那の目の前で急ブレーキをかけた。
 そして、数秒間、莉子は言葉を失って完全にフリーズした。

「……」
「? …… ど、どうしたの、莉子ちゃん?」
「……」

 莉子は一言も発さず、じーーっと凝視する。上から下まで、穴が開くほど新那の姿を見つめ回した。