箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい

 ならば、導き出すべき答えは、最初から一つしかなかった。
 零の口元が、ふわりと不器用に歪んだ。
 以前のような、人間の筋肉の動きをエミュレートしただけの偽物ではない。心の底から溢れた、自然で、優しい微笑みだった。

「お嬢の望みなら――喜んで同行しよう」

 新那が、瞬きも忘れたように大きく目を見開いた。

「本当!? 来てくれるの?」
「ああ。断る理由がない」
「やったあ……!」

 一瞬にして、新那の顔がパッと咲いた向日葵のように明るくなった。
 さっきまでの不安が嘘のように、まるで小さな子供のように嬉しそうに笑う。
 その弾けるような輝きを見て、零は静かに、自嘲気味に思う。

 ――嗚呼。俺は今、明確に創造主の命令に背いた。

 安全を最優先する護衛としては、完全に失格であり、間違っている。
 いつかこの選択のせいで、自分という存在が消去される日が来るのかもしれない。
 それでも、胸の奥を占めるこの感情には、一片の後悔すらもなかった。

「じゃあ、浴衣とかどうしようかな!  折角だし着たいよね!」
「浴衣、か」
「うん!  莉子ちゃんも『絶対に浴衣で行く!』って張り切ってたし!」
「なるほど。対象が和装を選択するのであれば、警護における機動性の確保を考慮する必要があるな」
「もう、そういう硬い話はナシ!  ……ねぇ、零は?」
「俺か?  俺は通常の衣服で――」
「零の浴衣姿、見てみたい。……着てほしいな」

 上目遣いに、少しだけはにかみながら放たれた即答。
 零は、僅かに息を呑むように目を見開いた。

「……お嬢が望むなら、まあ………」
「ふふっ。なら、張り切って浴衣選ばなきゃねっ」

 そんな彼の戸惑いにも気づかず、新那は楽しそうに「莉子ちゃんに連絡しなきゃ!」と、嬉々としてスマートフォンを操作し始める。
 窓の外では、変わらず蝉の声がワンワンと響いていた。
 眩しい夏が、今、始まる。それはきっと、これまでのどの記録(ログ)よりも美しく、楽しい一日になるだろう。
 そして同時に、零の胸の奥――金属の肋骨に守られた、本来なら冷徹なコアの奥深くでは。
 冷たいプログラムの記述をじわじわと焼き切るような、命令よりも遥かに強大な『何か』が、静かに、けれど確実に、熱い鼓動を刻み始めていた。