箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい

 休憩が終わり、続く国語の現代文。

「『この時の登場人物の気持ちを三十字以内で答えなさい』」

 零が淡々と問題を読み上げる。
 莉子は即座に眉間をこれ以上ないほど不快そうに歪めた。

「うわぁ、出た。私、国語のこういう『他人の気持ちを察しろ』系の問題、一番嫌い」
「何故だ。論理的に組み立てれば一意に定まる」
「分かんないから言ってるの!  他人の心なんかエスパーじゃなきゃ読めないじゃん!」
「簡単だ」

 零は問題文の一箇所を、長い指先でトントンと叩いた。

「この時、人物は『悲しんでいる』。それ以外の出力はあり得ない」
「えっ、なんで言い切れるの?」
「文章にそう書いてあるからだ。ほら、三行前に『胸が締め付けられるようだった』と記述がある。さらに五行前にも『涙が溢れた』とある。涙腺の稼働と胸部の圧迫感。すなわち悲嘆のシグナルだ。作者は極めて親切にデータを提示している」
「情緒をデータで処理しないでぇぇぇ!」

 莉子が机にしがみついて撃沈し、新那はもはや笑いすぎて涙を拭いていた。
 さらに、地獄の歴史(日本史)。

「続いて、戦国時代の変遷について――」
「無理。はい無理」
「まだ俺は一単語しか発声していないが」
「『戦国時代』って聞いただけで脳みそが強制終了するの。皆同じ髪型して刀振り回してるおじさんじゃん、区別つかない!」

 莉子は堂々と開き直ったように胸を張った。
 零は静かに、けれど憐れむような目で教科書を捲る。

「織田信長」
「うん、名前は知ってる」
「豊臣秀吉」
「うん、猿でしょ」
「徳川家康」
「うん、タヌキ」
「……よし。では、今言った三人の名前と特徴を覚えたか」
「覚えてない」
「何故だ!」

 あの冷静沈着な零が、本気で、演算回路の根底から困惑して声を荒らげていた。
 その「人間らしい戸惑い」が、新那には堪らなく嬉しかった。