箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい

 机の上に、莉子が持ってきたお菓子が一斉に広げられる。
 シャカシャカと小気味よい音を立ててポテトチップスの袋が開けられ、ジャンクで香ばしい匂いが神条家の清潔な部屋に満ちていく。

「新那ちゃん、ポテチ食べる?  うすしお!」
「食べる!  ありがと」
「神条君は?」

 莉子が差し出した袋を、零はじっと見つめていた。
 その視線は、危険物を鑑定するスキャナーのようでもあり、未知の物質を前にした子供のようでもあった。

「俺は不要だ。エネルギーの補給は別のルートで足りている」
「そういえば神条君って、学校でもほとんどお菓子とか買い食いしないよね。お弁当以外食べてるとこ見たことない」
「肉体の維持において、過剰な糖分および脂質の摂取は必要がないからだ」
「……仙人?  もしかして山から降りてきたタイプ?」
「違う。俺は純粋な――」
「はい、あーん!」

 真面目に反論しようとした零の唇の間に、莉子がポテトチップスを一枚、躊躇なく突っ込んだ。

「……!?」

 零が完全に凝固(フリーズ)した。光のない瞳が、システムエラーを起こしたかのように大きく見開かれる。
 新那も、持っていたクッキーを握り締めたまま少しだけ興味を惹かれて身を乗り出した。
 そういえば、彼がこういう「ジャンクなお菓子」を食べているところを自分も見たことがない。

「……」

 零は数秒間、完全に回路を停止させて迷っているようだったが、やがて観念したように、顎を精緻に駆動させた。

 パリッ。

 軽快な音が響く。沈黙。莉子が机に身を乗り出して、目を爛々と輝かせる。

「どう?  神条先生!  味の感想は!?」

 零はしばらく咀嚼し、嚥下し、その化学物質を体内のセンサーで分析した。

「――塩分」
「それは味付け!  感想を言って感想を!」
「……多量の、油分」
「だから!  美味しいとか、そういう情緒的なやつ!」
「ジャガイモの、スライス」
「分かっとるわ!  食材の解説はいらなーい!」

 莉子が激しく机を叩いてツッコミを入れ、新那はとうとう床に転がらんばかりに腹を抱えて大爆笑した。
 アールが、あの無敵のセキュリティ・アンドロイドが、たった一枚のポテトチップスに完全に翻弄されている。
 その様子が、どうしようもないくらい愛おしかった。