箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい

 土曜日、午前十時。
 神条家のリビングでは、朝から心臓に悪い慌ただしさで空気が張り詰めていた。

「零!  その本棚の裏!  余計なコードとか出てない!?」
「整理済みだ。視覚的ノイズは全て排除した」
「本当に!? 一ミリでも怪しい機械が見えたら終わりだからね!?」
「問題ない」
「その『問題ない』が一番問題しかない気がするんだけど!」

 新那は自室と廊下、さらにはリビングを何度も往復し、昨晩からずっと落ち着きなく動き回っていた。
 それもそのはず、今日は莉子がやってくる。人生で初めて、友達を家に招くのだ。
 ただでさえ緊張で爆発しそうなのに、相手は隣にいる過保護アンドロイドの正体を知らない。
 少しでもボロが出たら、神条家の秘密ごと全てが完全終了してしまう。

「地下のエレベーターのセキュリティは!?」
「ロック済み」
「零のメンテナンスルームは!?」
「完全施錠済み。生体認証なしでは解放されない」
「本当に……?」
「問題ない」

 信用しきれない新那が、なおも疑い深い視線を向けたその時――。

 ――ピンポーン。

 静寂を切り裂くように、インターホンが鳴り響いた。

「ひゃっっ!」

 新那の身体が大袈裟なくらい跳ね上がる。
 ついに、来てしまった。

「落ち着け、お嬢。心拍数が平常時の一.四倍に上昇している」
「落ち着いてる!  うるさい、零はそこで大人しくしてて!」

 新那は乱れた体操服の残像を振り払うように私服を整え、大急ぎで玄関へと走った。
 深く息を吸い、意を決して重厚なドアを開ける。

「新那ちゃーん、おはよー!」

 そこに立っていたのは、まばゆい夏の太陽に負けないほどの満面の笑みを浮かべた莉子だった。
 爽やかな白いTシャツに、デニムのスカート。
 肩から提げた大きめのトートバッグ。
 学校の制服姿しか知らなかった新那にとって、その「普通の女の子の私服姿」はひどく新鮮で、眩しかった。

「莉子ちゃん!  ようこそ」
「遊びに来たよー!  っていうか、うわぁ……!」

 一歩中へ足を踏み入れた瞬間、莉子は天井を見上げて感嘆の声を漏らした。一般家庭とは明らかに一線を画す、高い天井と大理石の広い廊下。

「めちゃくちゃ大きなお家だねぇ!  新那ちゃん、実は本物のお嬢様だったんだなぁ……」
「あはは……そ、そんなことないよ!  ほら、部屋こっちだから、いこう!」

 冷や汗を隠すように、新那は慌てて莉子の背中を押して二階へと案内した。
 莉子は完全に観光気分でキョロキョロと辺りを見回している。