新那は反射的にガタッと立ち上がった。
「な、何言ってるの莉子ちゃん!?」
「勉強会!」
「それは聞こえた!」
「だって神条先生がいるんだから!」
ビシッと零を指差す莉子。当の零は、突然教師扱いされている状況に回路が追いつかないのか、珍しく困惑の表情を浮かべていた。
「俺は教師ではない」
「今日から教師です!」
「……そうなのか?」
「違うから!」
新那は全力で叫んだ。しかし、一度火がついた莉子の猛進は止まらない。
「だって神条君全教科満点取れるんでしょ!? 三位の新那ちゃんもいるし、二人いたら百人力じゃん!」
嫌な汗が新那の背中を伝う。非常にまずい。
勉強会そのものはいいが、問題は場所だ。
「何処でやるの?」と新那が苛立ちを押し殺しながら尋ねると、莉子は得意気に即答した。
「神条先生の家!」
「え?」と新那の声が裏返り、「え?」と零も眉をひそめ、「え?」と周囲も首を傾げた。
「だって先生の家なら教材いっぱいありそうじゃん!」
「ない。俺の部屋に教材は存在しない」
「じゃあ新那ちゃん家!」
――ドクン、と新那の心臓が今度は恐怖で跳ね、本気で固まった。
危険。超危険だ。クラスには『近所に住む従兄弟』という設定で通しているのに、同居がバレたら一発でアウト。さらに家の中には、零専用のメンテナンス設備や充電ドックなど、一般人に見られたら完全終了の秘密が山ほどある。
「や、辞めといた方がいいんじゃないかなっ! ほら、私の家遠いし!」
「歩いて二十分くらいでしょ? 前に言ってた!」
「覚えてるの!?」
余計なことを言うんじゃなかったと新那が激しく後悔する中、莉子は体育祭で培った粘り強さを発揮して「お願い!」「だめ!」の泥沼の押し問答へともつれ込む。
「お願い!」
「だめぇぇぇ!!」
新那が限界の悲鳴を上げたその時、後ろから静かで冷静な声がした。
「勉強会は有効だ」
「零!?」
裏切り者に新那が勢いよく振り返るが、零は至極大真面目だった。
「犬丸の現在の学力、および忘却曲線から推測すると、今回のテストで赤点を取る確率は――八十七%」
「やめてぇぇぇ!」
莉子が頭を抱えて悲鳴を上げる。
「したがって、犬丸の補習回避は最優先の重要案件だ」
「重要案件なんだ……!」と莉子が不覚にも感動している。違う、感動するところじゃない。
断れば不自然。受け入れれば秘密基地に敵を招き入れるようなもの。どちらを選んでも地獄だった。
新那が額を押さえて絶望していると、莉子が満面の笑みで告げた。
「じゃあ決定! 今週の土曜日、新那ちゃん家で勉強会開催!」
終わった。新那は魂が抜けたように机に突っ伏した。完全敗北である。
その後ろで、零は小さく、頼もしく頷いた。
「了解した」
何を了解したのか、本人もおそらく分かっていない。
こうして、神条家を舞台にした、国家機密級に危険すぎる勉強会が幕を開けようとしていた。
「な、何言ってるの莉子ちゃん!?」
「勉強会!」
「それは聞こえた!」
「だって神条先生がいるんだから!」
ビシッと零を指差す莉子。当の零は、突然教師扱いされている状況に回路が追いつかないのか、珍しく困惑の表情を浮かべていた。
「俺は教師ではない」
「今日から教師です!」
「……そうなのか?」
「違うから!」
新那は全力で叫んだ。しかし、一度火がついた莉子の猛進は止まらない。
「だって神条君全教科満点取れるんでしょ!? 三位の新那ちゃんもいるし、二人いたら百人力じゃん!」
嫌な汗が新那の背中を伝う。非常にまずい。
勉強会そのものはいいが、問題は場所だ。
「何処でやるの?」と新那が苛立ちを押し殺しながら尋ねると、莉子は得意気に即答した。
「神条先生の家!」
「え?」と新那の声が裏返り、「え?」と零も眉をひそめ、「え?」と周囲も首を傾げた。
「だって先生の家なら教材いっぱいありそうじゃん!」
「ない。俺の部屋に教材は存在しない」
「じゃあ新那ちゃん家!」
――ドクン、と新那の心臓が今度は恐怖で跳ね、本気で固まった。
危険。超危険だ。クラスには『近所に住む従兄弟』という設定で通しているのに、同居がバレたら一発でアウト。さらに家の中には、零専用のメンテナンス設備や充電ドックなど、一般人に見られたら完全終了の秘密が山ほどある。
「や、辞めといた方がいいんじゃないかなっ! ほら、私の家遠いし!」
「歩いて二十分くらいでしょ? 前に言ってた!」
「覚えてるの!?」
余計なことを言うんじゃなかったと新那が激しく後悔する中、莉子は体育祭で培った粘り強さを発揮して「お願い!」「だめ!」の泥沼の押し問答へともつれ込む。
「お願い!」
「だめぇぇぇ!!」
新那が限界の悲鳴を上げたその時、後ろから静かで冷静な声がした。
「勉強会は有効だ」
「零!?」
裏切り者に新那が勢いよく振り返るが、零は至極大真面目だった。
「犬丸の現在の学力、および忘却曲線から推測すると、今回のテストで赤点を取る確率は――八十七%」
「やめてぇぇぇ!」
莉子が頭を抱えて悲鳴を上げる。
「したがって、犬丸の補習回避は最優先の重要案件だ」
「重要案件なんだ……!」と莉子が不覚にも感動している。違う、感動するところじゃない。
断れば不自然。受け入れれば秘密基地に敵を招き入れるようなもの。どちらを選んでも地獄だった。
新那が額を押さえて絶望していると、莉子が満面の笑みで告げた。
「じゃあ決定! 今週の土曜日、新那ちゃん家で勉強会開催!」
終わった。新那は魂が抜けたように机に突っ伏した。完全敗北である。
その後ろで、零は小さく、頼もしく頷いた。
「了解した」
何を了解したのか、本人もおそらく分かっていない。
こうして、神条家を舞台にした、国家機密級に危険すぎる勉強会が幕を開けようとしていた。



