借り人競走が興奮の余韻を残して幕を閉じると、グラウンドは次の競技のためのライン引きや整備のために、一時的な静寂に包まれた。
しかし、その静けさも長くは続かない。太陽が天頂を僅かに過ぎ、初夏の熱気が最高潮に達したその時、放送席のスピーカーからマイクを叩く高い音が全校に響き渡った。
『――続いて、本日、全てのプログラムの最後を飾る競技を行います』
その一言がスピーカーから放たれた瞬間、まだ席に座っていた全校生徒の間に、電気的な緊張感がビリビリと走った。
空気が一瞬で、爆発寸前のダイナマイトのように変貌する。
『男子、クラス対抗リレーです! 各クラスの精鋭達による、最後の戦いが始まります!』
「――きゃあああああああああ!!」
その瞬間、地鳴りのような歓声がグラウンドを揺るがした。
校庭の砂埃が一斉に舞い上がるかと思うほどの、すさまじい大声援。
応援席の生徒達が一斉にガタガタとパイプ椅子を鳴らして立ち上がり、メガホンを打ち鳴らす。
遥か後方の保護者席からも、割れんばかりの拍手が巻き起こる。まさに、この体育祭における最大の、そして最高峰の見せ場だった。
「ついに始まるね、新那ちゃん!」
莉子がすでに半分椅子の上の立ち上がるようにして、興奮を抑えきれない様子で叫ぶ。
「うん……っ!」
新那も短く頷いた。けれど、どうしてだろう。さっき全力で走ったはずなのに、胸の奥の鼓動が、それとは全く違う理由で妙に速く、そして激しく暴れている。
原因は分かっていた。さっきのゴール裏での、アールとの会話だ。
『何で、嘘ついたの』『嬉しくなかった』――普通の男の子のように、少しだけ拗ねたように、残念そうに呟いた彼のあの表情、あの声が、脳裏に焼き付いて離れない。
今や、トラックの向こう側を見つめるだけで、心臓の辺りがうるさいくらいに騒がしかった。
『各クラスの代表走者は、それぞれのスタート位置およびバトンタッチゾーンへ入場してください』
アナウンスの誘導に従って、体操服に身を包んだ各クラスの駿馬たちが、殺気立つような緊張感をまとってトラックへと集まっていく。
そして――。
第一コースの遥か後方、アンカー用の最終バトンタッチゾーンに、一年B組の最後尾として立つ、あの男の姿が見えた。
「……っ」
グラウンドを、一陣の突風が吹き抜ける。
アールの額で鉢巻の端が、生き物のように激しく揺れていた。
周囲の男子高校生達の中に混ざっていても、一人だけ頭一つ分高い圧倒的なプロポーション。
体操服の袖から伸びる無駄のない長い腕。
しなやかな豹を思わせる、均整の取れた長い脚。
ただそこに立ち、腕を組んでトラックを見つめているだけなのに、周囲の空気を歪めるほどの異彩を放ち、猛烈に目を引いた。
「神条くん頑張れーーー!!」
「アンカー頼んだぞ! ぶっちぎれ!!」
「キャー! 神条くーん! こっち向いてー!」
B組の応援席からはもちろん、他クラスの女子達からも、黄色い悲鳴のような声援が次々とアールへと飛んでいく。
手を振る女子達の数は、明らかに他の走者より多かった。
その、眩しいほどの光景を見て――。
新那は、自分でも理由が分からないまま、ほんの少しだけ苦く眉を顰めた。
(……なんか、すっごく人気、だなぁ……)
いや、人気なことくらい、最初から知っていた。
下手な人間よりも整った圧倒的な造形の顔。
どんなスポーツも初見で完璧にこなす運動神経。
何を聞いても一瞬で正解を出してくる頭脳。
おまけに、最近は自分の「友達プロトコル」のせいで、以前の鉄仮面のような冷徹さが薄れ、どんどん魅力的な「年頃の男の子」っぽくなってきているのだ。
しかし、その静けさも長くは続かない。太陽が天頂を僅かに過ぎ、初夏の熱気が最高潮に達したその時、放送席のスピーカーからマイクを叩く高い音が全校に響き渡った。
『――続いて、本日、全てのプログラムの最後を飾る競技を行います』
その一言がスピーカーから放たれた瞬間、まだ席に座っていた全校生徒の間に、電気的な緊張感がビリビリと走った。
空気が一瞬で、爆発寸前のダイナマイトのように変貌する。
『男子、クラス対抗リレーです! 各クラスの精鋭達による、最後の戦いが始まります!』
「――きゃあああああああああ!!」
その瞬間、地鳴りのような歓声がグラウンドを揺るがした。
校庭の砂埃が一斉に舞い上がるかと思うほどの、すさまじい大声援。
応援席の生徒達が一斉にガタガタとパイプ椅子を鳴らして立ち上がり、メガホンを打ち鳴らす。
遥か後方の保護者席からも、割れんばかりの拍手が巻き起こる。まさに、この体育祭における最大の、そして最高峰の見せ場だった。
「ついに始まるね、新那ちゃん!」
莉子がすでに半分椅子の上の立ち上がるようにして、興奮を抑えきれない様子で叫ぶ。
「うん……っ!」
新那も短く頷いた。けれど、どうしてだろう。さっき全力で走ったはずなのに、胸の奥の鼓動が、それとは全く違う理由で妙に速く、そして激しく暴れている。
原因は分かっていた。さっきのゴール裏での、アールとの会話だ。
『何で、嘘ついたの』『嬉しくなかった』――普通の男の子のように、少しだけ拗ねたように、残念そうに呟いた彼のあの表情、あの声が、脳裏に焼き付いて離れない。
今や、トラックの向こう側を見つめるだけで、心臓の辺りがうるさいくらいに騒がしかった。
『各クラスの代表走者は、それぞれのスタート位置およびバトンタッチゾーンへ入場してください』
アナウンスの誘導に従って、体操服に身を包んだ各クラスの駿馬たちが、殺気立つような緊張感をまとってトラックへと集まっていく。
そして――。
第一コースの遥か後方、アンカー用の最終バトンタッチゾーンに、一年B組の最後尾として立つ、あの男の姿が見えた。
「……っ」
グラウンドを、一陣の突風が吹き抜ける。
アールの額で鉢巻の端が、生き物のように激しく揺れていた。
周囲の男子高校生達の中に混ざっていても、一人だけ頭一つ分高い圧倒的なプロポーション。
体操服の袖から伸びる無駄のない長い腕。
しなやかな豹を思わせる、均整の取れた長い脚。
ただそこに立ち、腕を組んでトラックを見つめているだけなのに、周囲の空気を歪めるほどの異彩を放ち、猛烈に目を引いた。
「神条くん頑張れーーー!!」
「アンカー頼んだぞ! ぶっちぎれ!!」
「キャー! 神条くーん! こっち向いてー!」
B組の応援席からはもちろん、他クラスの女子達からも、黄色い悲鳴のような声援が次々とアールへと飛んでいく。
手を振る女子達の数は、明らかに他の走者より多かった。
その、眩しいほどの光景を見て――。
新那は、自分でも理由が分からないまま、ほんの少しだけ苦く眉を顰めた。
(……なんか、すっごく人気、だなぁ……)
いや、人気なことくらい、最初から知っていた。
下手な人間よりも整った圧倒的な造形の顔。
どんなスポーツも初見で完璧にこなす運動神経。
何を聞いても一瞬で正解を出してくる頭脳。
おまけに、最近は自分の「友達プロトコル」のせいで、以前の鉄仮面のような冷徹さが薄れ、どんどん魅力的な「年頃の男の子」っぽくなってきているのだ。



