イケメン狸さんたち、カボチャを届けにくるよ(毎週金曜日連載中)

お母さんの口角がかすかにあがり、わたしの身は慣れているあのバラの香水のやわらかな香りと温かさに包まれた。

お母さんの目の端っこに小さな涙が一粒、また一粒と集まり、病室の照明を反射し、きらきらと輝いていた。

「ごめんね、千結ちゃん。ずっと大好きだよ。」

「お母さん…」

目がうるうるし始めたそのとき…背後から捕まえられた!

「さあ、行くよ、千結ちゃん!お大事に、狢沢さん。」

ぐいっ!行きたくない。

「やだ、お母さんと一緒にいたい!!!」

わたしの必死な願いは届かない。

「ほら、行くよ!」

もっと強く。手首が痛い。ダメだ。逃げない!連れて行かれる!必死にもがく。車に放り込まれる。ドアが閉められる。

車が動き出す。涙があふれる。

車の窓越しに、お母さんのいる病院がだんだん小さくなっていくのをただただぼんやり眺めた。大きな雨粒がポツンポツンと窓ガラスを叩く振動がわたしの手のひらへと伝わってきた。

濡れた落ち葉が飛んできて、ぺたっと車の窓にくっついた。夏休みが明けたらこんな地獄が待っていたなんて…家族3人でキャンプし、川で遊んだあの日はまるで夢見たいだなぁ…

「ごめんね、千結ちゃん。お母さんはね、癌でもう入院中だよ。お父さんも海外で単身赴任中。お母さんの余命は半年くらいというのもあって…お父さんはすごく帰りたいよ。でも、どうしても帰れない。千結ちゃんも1人で暮らせないでしょう?」

運転しているおばちゃんはわたしを励まそうとした。わたしをお母さんから引き離した悪魔本人のくせに。大人はいつも自分勝手だ。

わたしもお母さんの体調分かっている。それでも仕事のほうが大事と言って帰ってこないお父さんが大嫌い。それでも勝手に余命宣言する医者たちがもっと嫌い。

それからわたしとおばちゃんは何時間も車に乗り、それから船に乗り、ようやくあの島へたどり着いた。赤ちゃんのころから会っていない、おじいちゃんとおばあちゃんの住むあの島。

「千結ちゃん!大きくなったね〜!!」

船から降りたら他人のようなおじいちゃんとおばあちゃんが待っていた。わたしの頭に勝手に触って、大きくて冷たい怪物のような手でわたしの髪型をめっちゃくちゃにした。

「さよなら、千結ちゃん!」

それから、おじいさんとおばあちゃんと名乗り出るあの不審者たちの車に押し込められ、おばあちゃん家の道へと走った。

待って!

窓の外。たぬきがある。1匹。5匹。20匹!たぬきの耳!しっぽ!!おっさんにしっぽ!!

わたしは口をぽかんと開けた。少し乾いた唇が大きく伸びたら、裂けそうになり、ヒリヒリとした。

一体どうなっているの?!たぬきのコスプレが流行っている?!大人の間にも?!

車が止まった。

コンコンコン!!

誰かが窓を叩く。振り向くと…

みみ!しっぽ!!

たぬきの耳と尻尾をつけている同い年くらいの男子がそこに立っていた。

1人は背が低く、髪の毛がふわふわで薄い茶色。

もう1人は目つきが鋭く、髪の毛は赤がかっている茶色。

二人とも、この世にいてもいいくらい超イケメン。

「ふ〜ん、新入りは君っか。妙だな。それでも俺様のペットにしてあげるよ。」

あの鋭い目がわたしを見下ろしていた。

ペ、ペット?!?

「黒森牙。俺の家系代々村長だぞ。和尚さんとも縁が深い。ここでいい暮らししなければ俺の言う通りにしなきゃ、な。」

ギクッ。わたしの喉の奥の筋肉がぎゅっとなった。

突然隣の男子がぴょこと頭を車の中に突っ込んだ!

「僕は里山丸吉!!よろしく!!あのね!あのおやつ何?」

「ポテチだよ?」

丸吉くんは目をキラキラ輝かせた。あの目がうるうるしてポテチ欲しいと訴えていた。見ているとわたしの目頭もまるで少量の塩でも入ったかのように痒くて熱くていつのまにか涙がポロポロと一滴ずつ流れ始めて、私の視野を少しずつぼやかした。

ダメ!…なんかとても言えない。

「いいよ。」

わたしは袋からポテチを1枚取り出し、丸吉くんの手のひらに乗せようとしたら…

パシャッ!!

ポテチ盗まれた!スマホも!!

「待ってー!!」

車飛び出す。

「やだ!きらきらしている木札は僕も欲しい!!」

もう!

躓く。空に舞い上がった!?網にかかっている?!?

「た、たすけて!!!!!」

これは一体どういうこと?!?