ポンコツ執事なのに、お嬢様に溺愛される

 ナオが一体何を考えているのか、伏せられた顔から知ることはできない。
 試されているのか、それとも自分が試しているのか、ミアは突っ立ったままひたすら考えた。
 ショッピングモールのど真ん中、通行人が絶えないエスカレータの脇。
 道行く人が何事かと奇異の目を向けてくる。それだけで、自分達が場違いの存在であると知らしめられる。

「……貴方の主は、私ではないけれど」
「白鷺家のお方であれば、直接の主でなかろうと仕えるのが我々の使命でございます」
「そう」

 言葉を逆手に取って利用するなら、「アキラには告げ口をせず、仲間としてナギサを助けに行け」と言える。
 そうすれば、一人で向かったナギサを助けられるし、デート作戦も失敗にはならない。

「ナオ。“白鷺家の執事”としてナギサを追いなさい。何があろうと、絶対に勝って連れ戻すこと」
「承知致しました」
「それと、私は貴方を信じるから。もしも貴方が“そっち側”なら、私だって貴方に刃を向ける覚悟だから」

 ちらりと見上げたナオの視線と、見下ろすミアの視線が交わる。
 交わった視線の奥に何があるのか、読み取ることはできない。
 けれど、ナオの気配がわずかに変わったことだけは、はっきりと分かった。
 試されているのは自分か、それともナギサか。

「……かしこまりました」

 それ以上、余計な言葉はない。だが、その一言には、先ほどまでとは違う僅かな重みがあった。
 踵を返す動きは無駄がなく、既に意識は別の場所へ向いているのが分かる。
 すぐに人混みへと紛れ込む、はずだった足が一度だけ止まった。

「お嬢様」

 振り返らないまま、低く落とされた声は喧騒に掻き消される。

「——……無茶は、なさらないでください」

 それが忠告なのか、願いなのかは分からない。
 ミアが何かを返す前に、ナオの姿は人の流れの中へと溶けていった。
 
「……白鷺家はすごいねぇ」

 ナオに押し付けられた大量の紙袋を抱えて近寄ってきた浬は呑気に言う。
 
佐倉家(うち)も執事雇おうかな。あ、地味助とかいいかも」
「殺すわよ」
「こっっっっっわ。ミアちゃんってそんなこと言うキャラだっけ?」

 佐倉家ともあろう名家が執事を雇っていない事実もそうだが、それよりも浬がナギサに興味を示しているのがなんとも気に食わない。
 自分だけの執事だと思ってしまうのが、どうしても辞められなかった。

「ミアちゃん」
「っ……」

 不意に近づけられた口が、耳元で吐息と共に開かれる。

「他に使いの人間がいるかもしれない。俺達も作戦続行だよ」
「……えっ、ええ。もとよりそのつもりよ」

 ほんの少しドキリとしてしまったのは、誰にも秘密だ。