ポンコツ執事なのに、お嬢様に溺愛される

 週末のショッピングモールは、人で溢れていた。
 吹き抜けの天井から差し込む光と、行き交う人々のざわめき。屋敷とはまるで違う、雑多で生きた空気がそこにはある。
 その一角、エスカレーター近くの待ち合わせスペースに、ミアとナギサは立っていた。

「……人、多いわね」

 小さく呟くミアの声は、何処か落ち着かない様子である。
 無理もない。
 普段は人に囲まれる側であっても、こうして“紛れる”ことには慣れていないのだろう。
 ショッピングモールという場所に来ることすら、指で数えられるくらいしか来たことがない。

「週末ですからね。これでもまだ少ない方だと思いますよ」
「嘘でしょ……」

 軽く眉を顰めながらも、ミアは周囲を見渡す。
 その仕草一つで、通りすがりの人間が何人か視線を向けるのが分かった。
 服装を変えたところで、隠しきれないものはあるらしい。

(……やけに目立ってるな)

 ナギサは一歩だけ前に出て、自然にミアの視界と人の流れの間に立った。

「何よ」
「いえ、ちょっとだけ盾になろうかと」
「別にいらないわよ」

 そう言いながらも、ミアは位置を変えない。
 むしろ、ほんの少しだけナギサの背後に寄った気がした。

「で、あいつは?」
「そろそろのはずですけど……」

 スマホで時間を確認する。約束の時刻までは、あと数十秒。
 心の中でこのまま来ないでくれと思っていたその時。

「お、いるじゃん」

 背後から、聞き慣れた気の抜けた声が降ってきた。

「うわっ!?」

 反射的に振り返ると、いつの間にいたのか、すぐ後ろに浬が立っていた。
 彼もまた周囲に溶け込むようなありふれた格好をしている。見合いの時とは違う、大学に行く時の格好によく似ている。

「な、なんで後ろから……!」
「普通に来ただけだけど?」

 何にも悪いことをしていないと言いたげに、ケロッとした顔で肩を竦める。
 相変わらず気配を消すのが上手いのか、それともナギサが気を張りすぎているのか。

「遅いわね」
「時間ぴったりだろ。文句言うなって」

 ミアの言葉にも軽く返しながら、浬は二人の前に回り込む。
 そして、頭から爪先までを舐め回すようにじっと見た。

「へぇ」
「……何よ」
「いや、可愛いじゃん」

 じっくりと見つめてから、あっさりとそう言った。

「っ……!」

 ミアの表情が一瞬で固まる。
 さっきまでナギサに言われた時とは比べ物にならないほど、分かりやすく反応していた。

「な、何言ってるのよ急に……」
「事実言っただけだけど?」

 悪びれもなく続ける浬に、ミアは露骨に視線を逸らす。