ポンコツ執事なのに、お嬢様に溺愛される

 まだ朝の光が柔らかく差し込む時間帯。
 カーテンの隙間から入り込んだ陽光が、部屋の中を淡く照らしていた。

「ここを結んで……うわああ! 解けちゃうううう! ルナなんかがお嬢様の髪を触るからだああああ!!」
「ルナ、ルナ。大丈夫だから、落ち着きなさい」

 部屋の中央では、朝から賑やかな遣り取りが繰り広げられていた。
 ミアの背後に回ったルナが、悪戦苦闘しながら髪をまとめようとしている。だが、どう見ても上手くいっていない。
 左右で高さが違う。妙に引っ張られているせいで、ミアの表情も若干引き攣っている。

「うえええん。折角お嬢様綺麗なのにぃ、ルナのせいで髪がボサボサぁ……」
「そんなことないわ。この服を選んでくれたのはルナでしょう? 貴方が選んでくれたこの服、私好きよ」
「お、お嬢様ぁぁぁぁぁぁ」

 やはりどこか姉妹じみて見える二人の遣り取りが部屋を満たす。
 彼女達の仲睦まじい様子を、少し離れた場所からナギサはぼんやりと眺めていた。

(……大丈夫かな、これ)

 正直に言って、不安しかない。
 今日が何の日かを考えれば尚更だ。けれど、口を出すべきかどうか判断に迷う。

「ルナ、そこは違うわ」

 と、ナギサが一人考えていると、静かな声と共に一人のメイドが歩み寄った。
 ルナが握っていた櫛を自然に手にしたのは、立っているだけで安心感のあるマアサである。

「髪は引っ張ればいいというものではないの。力を抜いて、流れを整えてからまとめるのよ」
「は、はいっ!」

 入れ替わるように受け取った櫛を握り直し、マアサは慣れた手つきでミアの髪に触れる。
 先ほどまでのぎこちなさが嘘のように、滑らかに整っていく。
 絡まりを解き、流れを整え、ゆったりとしたラインでまとめ上げる。

「……すごい」

 ほとんど無意識の内に、声が漏れた。
 けれど、三人の視線が一斉にナギサへと向く。

「あ、いや、その……」
「見てるだけなら簡単よね」

 ミアが少しだけ意地悪く言う。けれど、その頬はほんのり赤い。
 照れているのか、それとも——……。

(……楽しみにしてる?)

 ただの作戦ではなく、純粋に浬とのデートを楽しみにしているのか。
 そう思うと、ほんの少しだけ胸の奥がズキリと痛んだ。楽しそうにしているミアを見るのは嬉しいのに、その環状を作り出したのが別の男である事実が気に食わない。

「だって、下手に触ったら怒られそうで」
「怒るに決まってるでしょ」
「ほらナギサ君、そこで突っ立ってないで何か言ってくださいよぉ……!」

 手持ち無沙汰になったルナが半泣きで助けを求めてくる。

「いや、えっと……その」

 視線の先には、整えられていくミアの姿がある。
 普段より少しだけ柔らかくまとめられた髪。そして、鏡越しに見えるその表情。