ポンコツ執事なのに、お嬢様に溺愛される

 ミアの返事を聞いた浬は、愉快げに一つ笑みを落とす。

「なんならいっそ。この見合いどころか、これからも続くであろう見合い……いや違ぇな。政略結婚をぶっ潰そう」
「政略結婚!?」

 やっぱり、何も知らないのはナギサだけだった。
 屋敷の中にあの女将やその他の人がいるはずなのに、耐えきれずに叫んでしまう。

「政略結婚って、あの政略結婚ですよね?」
「どの政略結婚よ。今のところ、私は朔春さんと結婚することになっている……けれど、これは私の我が儘。朔春さんとの政略結婚を断固拒否するために、偽装恋人を佐倉さんには頼みたい」

 初対面の人に頼むことではないだろう。なんて、思いつきもしなかった。
 むしろふさわしいと。
 浬であれば、その願いを叶えてしまうとさえ思ってしまった。

「白鷺を潰す気?」
「正直言って、白鷺なんてどうだっていい。籠の中の鳥になるくらいなら、籠なんて壊してやるわよ」
「……俺はいいけど、そいつに聞かれちゃあまずいんじゃねぇの?」
「僕が聞いちゃいけないような話でしたか?」

 なんてことのないように聞き返すと、浬は額に手を当てて深く項垂れた。

「俺とミアちゃんはウィンウィンの関係だから、余っ程のことがない限り裏切ることはない。けど、地味助、お前が仕えるのはミアちゃんだとしても、雇い主は白鷺の大旦那だ。その気になれば、仕える主よりも上の位にいる大旦那に告げ口だってするだろう」
「そ、そんなこと――」

 ない。と言えたなら、少しは格好がついたのだろう。
 けれど、実際は言葉をつまらせて俯くだけ。
 浬が「だろうな」とでもいいたげな顔を得意げにミアへと向けた。

「ミアちゃん。俺はこいつに関して大学でのことしか知らねぇけどさ、怪しいと思うぜ」
「何が怪しいって言うの?」

 冷静さこそ崩さず、ミアの顔には確かに怒りが現れていた。

「やっと見つけたのよ。あんたがナギサを怪しいと思うのは勝手だけど、私は手放すつもりなんてない。この場に連れていたのは私の判断だから」
「その判断が間違えていたと後悔する時が来ると思うけど」
「そんなことありはしないわ。私だけはナギサを信じているから」

 視線は浬に向けられていたが、その横顔に嘘偽りはないように見えた。
 お世辞なのか、浬からの脅しを躱すための嘘なのか、それとも本心なのか。
 ミアが何を言いたいのか定かではないが、少しは信用してくれているということなのだろう。