ポンコツ執事なのに、お嬢様に溺愛される

 しばしの間、ミアは不敵に笑う浬を見つめていた。
 それから少しして、ミアはゆっくりと鞄の中に手を差し入れる。
 丁寧な手つきで取り出したのは、一通の白くありふれた手紙だった。
 大事に保管されていたそれを、迷いなくちゃぶ台の上に置く。

「これ」

 浬の目を見つめたまま、手紙を彼の方へ指先で押し出す。

「貴方が送ってきたもので間違いないかしら」

 あれだけ部屋を埋め尽くしていた大量の手紙からたった一通を見つけ出したものだと、密かに感心してしまう。
 最も、目の前の浬は、他にミアへ恋文を送っている人がいることなど知りもしない。

「ん?」

 浬は気の抜けた声を出しながら、差し出された(送り返された)手紙を手に取った。
 封筒を開き、中身を一瞥してから。

「そーだね。俺が送ったやつ。何、まさか本気にした感じ?」
「揶揄うのは辞めていただける?」
「少なくとも、そいつはそうみたいだけど」

 ずっと二人だけの世界が広がっていたから、口を挟まないように黙っていたのに。

「え、僕?」
「お前以外に誰がいんだよ。相変わらず地味だなー」
「地味は関係ないと思うけど……」
「自覚があるようで感心感心」

 うんうんと何度も頷く仕草が無性に腹立たしい。
 分かりやすく表情に表すナギサを横目に、ミアは嗜める口ぶりを続ける。

「この見合いは、佐倉家ご当主様と白鷺家(うち)のお父様が極秘で進めていたものらしいわね。私も貴方も知らずにここにいる」
「……ああ。この手紙もこの見合いも全部仕組まれたものだ」

 双方世界中に名が知られている家の娘息子であれば、こうした突然の見合いなど驚くことでもない。
 たった一人、理由が分からず動揺しているのは、ナギサただ一人だ。
 朔春とはまた違う関係性が、二人の間にはある。

「なあ、ミアちゃん。と、地味助」
「何」
「何ですか」

 嫌な奴だとは思わない。
 嫌な奴ではなくて、極力関わりたくない奴へと降格した。

「この見合い、ぶっ潰してやろうぜ」

 もしも白鷺家の屋敷でこの見合いが行われていたならば。そして、すぐ傍にケイゾウやアキラがいたならば。
 こんな馬鹿げた提案に首を縦に振ることなど無かっただろう。

「……いいわね。面白いじゃない」

 いいや、違う。
 ミアならば、ケイゾウがいようがいまいが関係なく提案に乗る。
 心底愉快げに笑う姿は、到底令嬢とは言い難い不敵なものであった。