再び廊下に静寂が戻る。自分一人が異世界に取り残されたような感覚が消えない。
この屋敷は、自分の居場所ではないこと。
それは最初から分かっていたはずなのに、こうして突きつけられると、逃げ場がなくなる。
「……はあ」
考えたって、すぐに答えが出る問題ではない。そして、誰かが教えてくれる問題でも、模範解答がある問題でもない。
(……戻らないと)
あの二人が苺ミルクを飲めるその時を部屋で待っている。まるで姉妹のような二人が待っているのだ。
自分はそれを取りに行く途中だったはず。
こんなところで立ち止まっている場合ではない。自分の役割は、もう決まっている。
「……執事、なんだよな。僕」
ぽつりと呟いてはみるけれど、その言葉は、まだ自分の中に馴染んでいなかった。
それでも足を動かし、厨房へと向かうために一歩踏み出す。
朔春が向かって行った方向とは反対に進み、まだ入ったことのない厨房の扉を開ける。中では、恐らくアキラへ出すための紅茶の準備をするナオがいた。
「何。厨房に何の用だよ」
「ミアお嬢様達が苺ミルクを飲みたいって言うから、牛乳を取りに来たんです」
ぎこちない笑みを浮かべて大きな冷蔵庫へと向かう。
年齢こそナギサの方が上だが、執事歴はナオの方が上。自然と敬語で話してしまうのは、最早ナギサの癖だった。
「何かあった?」
「……何も無いですよ」
「その顔でお嬢様の所に戻るつもりかよ。はい、没収ー」
「あっ!」
まともに握れていなかったから、ナオに取り上げられなくても遅かれ早かれ牛乳パックは落としていた。
それにナオが気付いていたのかは分からない。けれど、確かにナギサが抱える何かには気付いている。
「話すまでこの牛乳はやらないし、お嬢様の所に戻さねぇから」
だからあったことを話せ。ナオはそう言いたいのだろう。
「これは僕自身の問題です。僕が自分でなんとかしないと」
「あ、ちょっ! おい待て!」
「ナオさんすみません。ミアお嬢様達が待っているんで」
無理矢理ナオの手から牛乳を奪い取り、逃げるように厨房を飛び出す。
今度こそ誰にも会わないように願いながら廊下を駆け足で進んだ。
と、その時、廊下の途中に置かれている姿見に自分の姿が映ったのが目に入る。
「……うわ。なんつー顔してんだろ」
窶れた表情、光のない瞳、縮まった背中。執事の風上にも置けないあるまじき姿をした自分が目の前にいる。
(こんな姿、確かにミアお嬢様に見せられるわけない)
背筋を伸ばし、頬を叩いてもう一度鏡に向き直る。ほんの少しだけ表情が晴れたように見えた。
誰よりも不安を抱くミアに執事が不安を見せるわけにはいかないのだ。
この屋敷は、自分の居場所ではないこと。
それは最初から分かっていたはずなのに、こうして突きつけられると、逃げ場がなくなる。
「……はあ」
考えたって、すぐに答えが出る問題ではない。そして、誰かが教えてくれる問題でも、模範解答がある問題でもない。
(……戻らないと)
あの二人が苺ミルクを飲めるその時を部屋で待っている。まるで姉妹のような二人が待っているのだ。
自分はそれを取りに行く途中だったはず。
こんなところで立ち止まっている場合ではない。自分の役割は、もう決まっている。
「……執事、なんだよな。僕」
ぽつりと呟いてはみるけれど、その言葉は、まだ自分の中に馴染んでいなかった。
それでも足を動かし、厨房へと向かうために一歩踏み出す。
朔春が向かって行った方向とは反対に進み、まだ入ったことのない厨房の扉を開ける。中では、恐らくアキラへ出すための紅茶の準備をするナオがいた。
「何。厨房に何の用だよ」
「ミアお嬢様達が苺ミルクを飲みたいって言うから、牛乳を取りに来たんです」
ぎこちない笑みを浮かべて大きな冷蔵庫へと向かう。
年齢こそナギサの方が上だが、執事歴はナオの方が上。自然と敬語で話してしまうのは、最早ナギサの癖だった。
「何かあった?」
「……何も無いですよ」
「その顔でお嬢様の所に戻るつもりかよ。はい、没収ー」
「あっ!」
まともに握れていなかったから、ナオに取り上げられなくても遅かれ早かれ牛乳パックは落としていた。
それにナオが気付いていたのかは分からない。けれど、確かにナギサが抱える何かには気付いている。
「話すまでこの牛乳はやらないし、お嬢様の所に戻さねぇから」
だからあったことを話せ。ナオはそう言いたいのだろう。
「これは僕自身の問題です。僕が自分でなんとかしないと」
「あ、ちょっ! おい待て!」
「ナオさんすみません。ミアお嬢様達が待っているんで」
無理矢理ナオの手から牛乳を奪い取り、逃げるように厨房を飛び出す。
今度こそ誰にも会わないように願いながら廊下を駆け足で進んだ。
と、その時、廊下の途中に置かれている姿見に自分の姿が映ったのが目に入る。
「……うわ。なんつー顔してんだろ」
窶れた表情、光のない瞳、縮まった背中。執事の風上にも置けないあるまじき姿をした自分が目の前にいる。
(こんな姿、確かにミアお嬢様に見せられるわけない)
背筋を伸ばし、頬を叩いてもう一度鏡に向き直る。ほんの少しだけ表情が晴れたように見えた。
誰よりも不安を抱くミアに執事が不安を見せるわけにはいかないのだ。



