ポンコツ執事なのに、お嬢様に溺愛される

 百歩譲って、自分が仕える主の部屋にいることは理解できる。
 窓辺の小さなテーブルを囲うように置かれた二つの椅子、その内の一つに腰掛ける年若い少女。
 窓の外から貸しこむ陽の光で半顔を照らすその姿は、何処か儚くも見える。
 ただ、何がどうなって、

「流石に食べすぎじゃないですか……っ!?」

 今朝方とは比にならない大皿に山盛りの苺を抱えて部屋の端に立たされているのだ。
 そして、何故ミアの向かいにはルナが座っている。苺を頬張っている。

「仕方ないじゃない。お得意先から大量に送られてきたはいいけど、全然減らないんだから」
「ナギサ君も食べましょっ」
「……僕は遠慮しときます」

 ルナが無邪気に苺を頬張って楽しそうにしているのはいい。
 それよりも、どうしてミアが何事もなかったかのように振る舞っているのかが謎だ。
 ほんの数十分前に、何処かの財閥の御曹司か何かの男が押しかけてきたというのに。

「何か聞きたいって顔してるわね」
「そりゃそうでしょう。ここに来てから、気になることしかないです」

 白鷺家とは一体どういう一家なのか。何故、母親らしき人物が見当たらないのか。兄であるアキラがミアを蔑むのは何故か。
 今朝が倒しかけてきたあの男は誰なのか。
 それよりも前に、アキラが言っていた「どれだけ呼び込んだとて、最後には出ていかれるのがオチ」というのはどういうことなのか。
 最早、どれから問えばいいのかすら分からない。

「こっちに来なさい」
「え……。別にここからでも」
「いいから、こっちに来なさいって」

 扉のすぐ傍に立っておくように言ったのはミアなのに。とは言わず、大皿を抱えたまま窓辺へと近づく。
 いつの間にか空になっていた更に追加の苺を入れ、すかさずルナが手を伸ばした。

「まずは、そうね……お兄様が言っていたことからでも説明しようかしら」
「み、ミアお嬢様。ルナはお邪魔ですよねぇ……もう出ましょうか?」

 出ていくなら、せめて食べかけの苺を飲み込んでからにすればいいのに。
 
「別にさして重い話をするわけでもないし、苺の消費を手伝って」
「はいっ!」
「よく噛んで食べるのよ」
「むぐぐ……ん、はーい!」

 一応はルナが使用人の立場なのだろうが、こうして見ていると、ミアがルナの世話をしている様に思える。
 実際、二人は姉妹のような間柄なのかもしれない。