ポンコツ執事なのに、お嬢様に溺愛される

 手紙を燃やして消し去ることはできても、直接送り主に「手紙を送るのは辞めてくれ」なんて言えるわけがないのだ。

「……すみま、せん………話してくれと言ったのは僕なのに、話を聞くことしか」
「相談役なんて何人いたって同じよ。端からあんたに期待なんてしていないから、安心して」

 乱暴にクッションをベッドの上に投げつけ、ミアはベッドから飛び降りる。
 何だが、さらっと馬鹿にされた気が。

「え、ちょっと……執事素人なのは分かってますけど、それなりに頑張ろうって思えてきたんですよ……?」

 期待されたいから執事を始めたわけではない。
 ただ、断れなかっただけだ。白鷺家の当主であるケイゾウに執事になるように言われて、一般人の凪冴が断れるはずもない。
 だから始めただけ。
 執事見習いとして、娘のミアに仕える立場としてここにいる。

「やっぱり、あんたが執事なんて意味分からない」
「そ、そんな言い方……」

 ふんと鼻を鳴らし、激しく音を立てて扉を開けると部屋を出ていく。
 ナギサも慌ててベットから飛び降り、ずかずかと大股で廊下を進むミアの後を追った。
 しばらく微妙な距離を保ったまま廊下を進み、やがて二人は食堂へと入る。

「おっそ」

 重厚な扉を開けて中に入るなり、棘のあるナオのド低音ボイスが飛んできた。
 食堂には、ケイゾウと若い眼鏡を掛けた男性がテーブルを囲んで座っており、壁際にイツキとナオ、マアサ、ルナ、そして同じくメイド服を着た見慣れない女性が立っていた。

「おはうございます、ミアお嬢様」
「ええ、おはようイツキ」

 流れる仕草でイツキは椅子を引き、それにミアは座る。
 なるほど。執事というのは、主の後ろを歩きつつ先回りして扉を開けたり、座りやすいように椅子を引いたりするのか。

(……めんどくさっ)

 そんなことを思ってしまうのは、素人どころか執事失格なのだろう。
 
「おい、ナギサ。ナギサ」
「ん?」

 食堂の入口で突っ立っていると、壁際から飛んできたナオに突然腕を引かれた。
 ズルズルと引き摺るように壁際へ連れて行かれ、マアサの隣に立たされる。ナギサを挟むように、反対側にナオは立った。

「お前、イツキから教えられてないわけ?」
「何が?」
「イツキ君がナギサ君の教育係なんでしょう? 彼から主な仕事内容は聞かされていないのかしら?」

 主な仕事内容……?
 そんなもの聞かされただろうか。昨夜はテーブルマナー講座で少ない時間を使い切り、そのまま自室で眠ってしまったはず。
 今になって思えば、執事として何をしないといけないのか何も聞かされていなかった。