ポンコツ執事なのに、お嬢様に溺愛される

 執事が主に対して踏み込んだ話をしていいのか分からない。
 こうして主の部屋に二人きりでいることがイツキにでも知られれば、締められるのは目に見えている。

「要するに、好きでもない人から手紙が何回も送られてきてウザイってことですよね」

 執事としてあるまじき言葉遣いをしていることにすら、今のナギサもミアも気が付かない。
 ただ、自分も同じ立場だったら疲弊するだろうと、うんざりするだろうと思った。
 これだけある手紙の中に、愛を持って送られたものなんて一つもないのだから。

「えーっと、ケイゾウ旦那様だっけか。あの人って貴方のお父さんなんですよね。もう手紙を送ってこないように何とかしてもらないんですか?」
「したわよ。何百回とお願いしたわ」
「え……なのに、これ?」

 思わず部屋中に散らばる手紙達を見渡し、あんぐりと口を開けて絶句する。
 そんなナギサの隣で、ミアはクッションに深く顔を埋めた。

「……父様が、裏で手紙を送るように動かしていたのよ」

 ミアは震える声で、順に事の経緯を語った。
 まず、この大量の恋文が送られてくるのは、今に始まったことではないこと。
 そしてもう一つ、恋文を送ってくるのは、同じく金融を取り扱うライバル財閥の御曹司からのものであること。
 表向きはライバル財閥でありながら、ミアの父であるケイゾウは関係を作るために裏で糸を引いていたのである。
 要するに、ミアは政略結婚を強いられているということだ。

(まさか、イツキさんが言っていたのはこのことなのか?)
 
 昨夜、一時的にイツキと二人きりになった時に彼から聞かされた話が脳裏に蘇る。
 二人きりの部屋で、確かこう耳打ちされた。

『ミアお嬢様の婚約を破断させろ』

 あの時でも大事であるとは思っていた。
 しかし、まさかここまでの一大事だとは思っていなかったわけで。
 まだ形上の執事になって一晩しか経っていないというのに、とんでもない任務を課せられてしまった。

「イツキやマアサにだって相談した。二人は変わらず私の味方でいてくれているけれど、父様には逆らえない。だから、あくまでも相談役とでしかいてくれないわ」

 そんなことはない。そんなはずはない。
 ただの相談役でしかいないのであれば、ぽっと出の凪冴にイツキがあんなことを頼むはずがない。
 少しでもそういったことを言ってやれれば良かったのだろう。
 けれど、実際のナギサは黙って話を聞くだけ。イツキやマアサと同じことしかできない。