ポンコツ執事なのに、お嬢様に溺愛される

 しばしの沈黙の後、傍らに転がっていたハート型のクッションを抱き寄せたミアは、ちらりとナギサの顔を見た。
 その頃には、床に膝を着けていたナギサもベッドに腰を下ろしている。さっきよりも幾分か距離が近づいた。

「白鷺家は、世界中の金融を取り扱う財閥。世間からは白銀の王座なんて呼ばれる家柄であることくらいは知ってるわよね」
「イツキさんから聞きました。総資産は三京円もあるって」

 金の話をしてしまったからか、ミアの目が鋭くナギサを睨め付けた。貧乏人の性が出てしまったらしい。

「その上、私の母は元世界的大女優。その娘である私は、幼い頃から男に言い寄られてばかりいた」
「もしかして、この散らばっている手紙って」
「何処からか私の存在を嗅ぎつけた男達が、懲りずに送ってくる気色悪い恋文」

 そりゃ、辺りに散らばらせたくもなりますわな。
 まとめて目の前に置かれるなんて、屈辱以外の何物でもない。酷いことをしてしまった。

「す、すみません……! 何も知らないのに勝手な真似を」

 懲りずに集めていた手紙をバッと放り投げ、手を大袈裟に払う。
 意味の分からない行動をするナギサを見ていたミアは、少しの間黙っていた。
 斜め下に落ちた視線には、何処となく諦めの色が滲んでいる。

「あんたくらいだわ。人から送られてきた手紙をこんな扱いしても怒らないのは」

 その言い方は、前は怒るような人が傍にいたということなのだろうか。それに、今回だけではなく、何度もこうして恋文が送られていると。

「ねぇ、あんたは一体何者なの?」
「えっ? 僕?」
「イツキが人を屋敷に連れて来るなんて初めてなのよ。今までは、お父様に頼まれても「嫌です」の一点張りだったのに」

 テーブルマナー講座の時、イツキは嫌なことは嫌だと言うから教育係は嫌ではないと言った。
 あの時は、ナギサを安心付けるための謳い文句だと思っていたが、本当だったらしい。
 例え相手が忠誠心を持って仕える主であろうと、時には逆らうのだと。

「今まで私の執事として屋敷に来た人達は、皆、私のことをじゃじゃ馬娘だの生意気だの言って出て行った。だから、叱らないのはあんたが初めて」
「……今までの話に、貴方を叱る理由なんて何も無いと思いますけど」

 確かに、人から送られてきた手紙を乱暴に扱うのはよろしくない。
 それでも、自分にも同じ目的で手紙を送られてきたとしたら、同じ扱いをする。
 資産と身体目当てで、そこに愛なんてものは微塵もない。ただの都合のいいように利用されるのは我慢ならないもの。
 自分で受け止めると言ったのだから、ナギサは話を聞いた上で言っていた。