ポンコツ執事なのに、お嬢様に溺愛される

 只事ではない、そう瞬時に感じた。そこからの行動は早い。

「何があったんですか? もしかして、イツキさんが言っていた外敵とかだったり……」

 手にした手紙を放り投げ、ベッドの脇に駆け寄る。
 その場に膝を折って顔を覗き込めば、ぐいっと手で押し退けられた。

「うわっぷ!」
「気安く近寄んな!」
「そういうわけにも、いきませんって。 僕、一応貴方の執事ですよ?」

 うーーーーーーわ。自分で言っちゃった。
 なーにが、「貴方の執事ですよ?」だ。昨日までゲーセンで格ゲーするだけの平凡以下大学生だったくせに。
 やっぱり夢なんじゃないか。世界中の金融を牛耳る白鷺グループの屋敷で執事として働くなんて、漫画の読みすぎだ。

「執事は主の傍に控えるものだってイツキさんが言ってました。僕はこれからミアお嬢様の傍にいないといけない。これも仕事なんですよ」

 執事になる気なんて更々無かったのに、今では自分から仕事だの何だの言って。
 足の踏み場もないくらいに散らばった手紙を一枚一枚拾い上げて、ベッドの上に置いた。

「マアサさん、心配そうにしてましたよ? 何かあったのなら、僕に話してください」
「……放っておいてって言ったのよ。あんただって聞こえていたでしょう?」

 部屋を訪れてから十数分。ようやくミアは掛け布団の中から這い出てきて、ベッドの上に座り込んだ。
 
「聞こえていたから聞いてるんですけど……」
「う、うるさいっ! 話したところであんたに何ができるのっ!?」
「それは、分かんないですけど……話してくれないと、できることもできないし」

 嗚呼、敬語。敬語忘れてる。
 なれる気がしない、執事になんて。

「……うんざりなのよ、全部」
「え?」

 どうせ、「無駄口叩いてないで、出ていけ!」とでも言われるものだと思っていた。
 すでに膝は浮いていて、いつだって部屋を出る準備は整っている。
 その上で、ミアの口から飛び出した言葉は予想していないものだった。

「皆、皆、白鷺家の資産と私の身体のことしか考えていない。うっとしいったらありゃしないわ!」

 ベッドの上にまとめて置いた手紙を激しく手で払い除け、ミアはベッドを殴りつけながら叫ぶ。
 折角集めたのに。そんなことは、最早思いつきもしなかった。

「ミアお嬢様。ここには僕しかいません。言いたいことがあれば、全部僕が受け止めます」

 執事素人で、テーブルマナーもまともになっていない身で、できることとすれば話を聞くくらいのものであった。