ポンコツ執事なのに、お嬢様に溺愛される

 ただ黙って片付けられるのを見ているわけにもいかず、慌てて立ち上がった凪冴も皿を重ねた。

「俺はな」

 決して目を向けることはなく、クロスが引かれたテーブルを拭きながらイツキはぽつりと零す。
 凪冴は、皿を重ねる手を止めてイツキの横顔を見た。

「高い肉よりも、色取り取りの野菜よりも、カップラーメンが好きだ」

 前置きも何もなく、いきなりそう言い出した。

「反発性のいい高級ベッドよりも、畳の上に直接敷いた布団で寝る方が好きだ」

 テーブルを拭く手は止まらない。その反面、零れ落ちるように続く話は止まらない。
 思わず手にしていた皿を落としてしまいそうになるくらい、凪冴は呆気に取られていた。

「贅沢な生活なんて別に必要ない。俺は、実家の縁側で茶を飲む生活を望んでいた」

 台拭きを丁寧に畳みながら、変わらず色のない目をする。
 けれど、今の目は何処か穏やかに見えた。ゲームセンターで出会い、今まで一線隔てた距離感を保っていたのに。
 今だけは、対等な立場で見られているような気がした。

「だが、今ここにいるのは、この恵まれた生活に目が眩んだからではない」

 まだ屋敷に来て数時間しか経っていない。それでも、ここでの生活は恵まれているのだろうと思う。

「全てを失った俺を救い出してくださった旦那様に仕えたいと、傍に置いてほしいと思うからだ」

 そこにあるのは、純粋な忠誠心。
 きっと、今までにも何人もの執事が雇われたのだろう。その中には、白鷺家の資産目当てだった者も少なくはない。
 ただ、イツキやナオ、マアサ達を見ていると、忠義を持った上でここにいるのだと思わずにはいられなかった。

「まあ、つまり。俺とお前は似ているということだ」

 似ている? イツキと?

「明日からはもっと厳しくするからな。覚悟しておけ」
「あ、あの! イツキさん!」

 ずっと反応を示さないから聞いていなかったと判断したらしいイツキが、一方的に話を切り上げて食堂を出ようとする。
 そんな背中に向かって凪冴は声を投げつけた。

「僕なんかに、執事が務まるんでしょうか。イツキさん達みたいに、なれるんでしょうか」

 イツキがわざわざ自身について語って聞かせたのは、自分と似ているお前ならできると言いたかったからなのかもしれない。
 
「……せめて、“僕なんか”と思わずとも済むようになれ」

 初めて見せる微笑みを残し、ぱたんと扉を閉める。
 残された凪冴は、胸元のバッチに手を伸ばし、そっと握り締めた。