ポンコツ執事なのに、お嬢様に溺愛される

 
「いや、流石に……流石にこれは変過ぎるってっ!!」

 いつだって、鏡の中に映る自分を見ることは好きではない。
 現実を思い知らされるような、お前は平凡以下の人間なのだと言われているような気がして。

「あの見窄らしい格好でお嬢様の横に立つつもりか。そろそろ執事としての自覚を持て」
「イツキさん? 僕は一度も執事になるって言ってませんが」

 屋敷の中でも奥の奥にある、人なんて寄り付こうとしないであろう一室に凪冴の声が響き渡る。
 大きな姿見の前に立っているのは、眉間に深い皺を寄せて腕を組むイツキと、タキシード姿の凪冴。
 この屋敷には、イツキの他に一人の執事と三人のメイドがいるらしい。
 そして現在、小さな一室にはイツキともう一人の執事がいた。

「一番背丈が近いからって呼び出された割に、あんまりサイズ合ってなさそうだね」
「そう言うな、ナオ」
「でもさー、こんなにも服に着られちゃう人なんていないと思うけどなぁ」

 もう一人の雇われ執事、ナオは凪冴を値踏みをする目で見つめた。
 背丈こそ凪冴と大差ないが、その言動や見目からは歳以下の幼さを感じる。一歩間違えれば、女子と間違えられそうな可愛らしさがあった。
 発する一言一言は、決して可愛らしくはないけれど。

「それに……その髪、何とかならない?」
「な、何とかとは……?」

 首から下は、見た目だけでも執事らしくなっている。イツキとナオと変わらない。
 しかし、二人の呆れたような視線は、凪冴の天然パーマに向かっていた。
 生まれた頃から人生を共にしている天然パーマ。強風にも豪雨にも負けない、最強の癖っ毛だ。

「癖っ毛なのは仕方ないとしてさ。その、伸ばしっぱにしてるのは駄目だよ」
「……昔行った美容院で失敗されたのが怖くて、行けないんですよ」

 だらしなくてすみませんね。心の中でそう呟きながら、引き攣った苦笑いを浮かべる。

「そう言うなら、お前が切ってやればいいだろう」
「無理だよー。美容師で失敗するなら、素人の俺は絶対無理」

 なら、言うな。
 そう言ったのは、イツキか凪冴か。

「あっ。じゃあ、メイド長に頼めば? あの人ならなんとかしてくれるでしょ」

 またも知らいない人の肩書が出てきた。
 イツキがナオを連れてこの部屋に来た時にも、「メイド長に言えば作ってくれるのに」とナオが言っていた気がする。
 メイド長と言うと、それなりに偉い立場の人なのだろう。