白鷺アキラ。
ミアの実兄であり、この屋敷の若き支配者。そして、先ほど浬の口から語られた、数々の悍ましい大罪の首謀者その人だった。
背後に控えるミアの身体が、恐怖で一瞬にして強張るのが気配で分かった。
ルナもまた、息を詰めて臨戦態勢一歩手前の緊張感を放っている。
「お兄様……」
ミアが震える声を絞り出すが、アキラは実の妹に視線すら寄越さない。
ただ、端正な顔立ちに冷酷極まりない笑みを浮かべたまま、その鋭い眼光を真っ直ぐにナギサへと突き刺していた。
「普段は使われない空き部屋で、身内だけで随分と楽しげな密談じゃないか。……私にも少し、その面白いお話を聞かせてくれないかな? 八人目の執事くん」
アキラが一歩、こちらへ足を踏み出す。
ただそれだけの動作なのに、地下駐車場で天城の使者と対峙した時以上の、圧倒的な質量を持った『圧』が部屋の中に流れ込んできた。
(……いつからいたんだ)
ナギサの脳裏に、最悪のタイミングでステージのボスが乱入してきた時のような、冷や汗混じりの焦燥が駆け巡る。
何処まで聞かれた? 浬との通話は? ナオ達の救出プランは?
あらゆる最悪の想定が頭を過るが、ナギサは新米執事の仮面を必死に張り付かせ、ミアを背中で庇うように一歩前へ出た。
「アキラ様。恐れ入ります、お嬢様の部屋の模様替えについて、少し話し合いが長引いてしまったんです」
「模様替え、ねぇ……」
アキラはナギサの言葉を鼻で笑うと、すっと目を細めた。
その瞳の奥にあるのは、獲物の逃げ道を完全に塞いだ捕食者の、冷徹な愉悦だった。
「ちょうどいい。少し前から、君とは話してみたかったんだ。今、時間あるかい?」
その言葉が落ちた瞬間、廊下の冷気が一気に空き部屋の中へと流れ込んできた。
それは疑問形の形をとった、絶対的な命令。
断る余地など爪の先ほども残されていない。アキラの背後には、彼の『影』であるナオやカリンの姿こそまだないが、この男が放つ圧倒的な存在感だけで、ナギサの身体は本能的に最上級の警戒レベルを叩き出していた。
(ついに来た。このゲームの、本当のバグの元凶……!)
脳裏を過るのは、数分前に浬から聞かされた悍ましい事実の数々。
目の前にいるこの男が、かつて幼い子供たちを地獄に突き落とし、今また保身のために実の妹の人生を売り払おうとしている悪魔。
怒りで拳が震えそうになるのを、ナギサは新米執事の理性で力ずくで押さえ込んだ。
ここで感情を爆発されたりでもしたら、その瞬間にアキラのフレームに捕まって即死する。
「はい。皆さんにお仕えする身として、アキラ様からのお言葉を断る理由はありません」
ナギサは完璧な角度で頭を下げ、静かに答えた。
所詮はイツキの真似。今でもできないことばかりで、何をしてもやらかしてばかりだけれど、完璧な執事であるイツキの真似をしている間は、自分も立派な執事になれている気がした。
「ダメよ、ナギサ……!」
背後から、ミアの悲痛な声が上がる。彼女はアキラの恐ろしさを誰よりも知っている。
ナギサがこのまま兄に連れて行かれれば、二度と戻ってこられないのではないか――そんな本物の恐怖が、その声に滲んでいた。
ミアの実兄であり、この屋敷の若き支配者。そして、先ほど浬の口から語られた、数々の悍ましい大罪の首謀者その人だった。
背後に控えるミアの身体が、恐怖で一瞬にして強張るのが気配で分かった。
ルナもまた、息を詰めて臨戦態勢一歩手前の緊張感を放っている。
「お兄様……」
ミアが震える声を絞り出すが、アキラは実の妹に視線すら寄越さない。
ただ、端正な顔立ちに冷酷極まりない笑みを浮かべたまま、その鋭い眼光を真っ直ぐにナギサへと突き刺していた。
「普段は使われない空き部屋で、身内だけで随分と楽しげな密談じゃないか。……私にも少し、その面白いお話を聞かせてくれないかな? 八人目の執事くん」
アキラが一歩、こちらへ足を踏み出す。
ただそれだけの動作なのに、地下駐車場で天城の使者と対峙した時以上の、圧倒的な質量を持った『圧』が部屋の中に流れ込んできた。
(……いつからいたんだ)
ナギサの脳裏に、最悪のタイミングでステージのボスが乱入してきた時のような、冷や汗混じりの焦燥が駆け巡る。
何処まで聞かれた? 浬との通話は? ナオ達の救出プランは?
あらゆる最悪の想定が頭を過るが、ナギサは新米執事の仮面を必死に張り付かせ、ミアを背中で庇うように一歩前へ出た。
「アキラ様。恐れ入ります、お嬢様の部屋の模様替えについて、少し話し合いが長引いてしまったんです」
「模様替え、ねぇ……」
アキラはナギサの言葉を鼻で笑うと、すっと目を細めた。
その瞳の奥にあるのは、獲物の逃げ道を完全に塞いだ捕食者の、冷徹な愉悦だった。
「ちょうどいい。少し前から、君とは話してみたかったんだ。今、時間あるかい?」
その言葉が落ちた瞬間、廊下の冷気が一気に空き部屋の中へと流れ込んできた。
それは疑問形の形をとった、絶対的な命令。
断る余地など爪の先ほども残されていない。アキラの背後には、彼の『影』であるナオやカリンの姿こそまだないが、この男が放つ圧倒的な存在感だけで、ナギサの身体は本能的に最上級の警戒レベルを叩き出していた。
(ついに来た。このゲームの、本当のバグの元凶……!)
脳裏を過るのは、数分前に浬から聞かされた悍ましい事実の数々。
目の前にいるこの男が、かつて幼い子供たちを地獄に突き落とし、今また保身のために実の妹の人生を売り払おうとしている悪魔。
怒りで拳が震えそうになるのを、ナギサは新米執事の理性で力ずくで押さえ込んだ。
ここで感情を爆発されたりでもしたら、その瞬間にアキラのフレームに捕まって即死する。
「はい。皆さんにお仕えする身として、アキラ様からのお言葉を断る理由はありません」
ナギサは完璧な角度で頭を下げ、静かに答えた。
所詮はイツキの真似。今でもできないことばかりで、何をしてもやらかしてばかりだけれど、完璧な執事であるイツキの真似をしている間は、自分も立派な執事になれている気がした。
「ダメよ、ナギサ……!」
背後から、ミアの悲痛な声が上がる。彼女はアキラの恐ろしさを誰よりも知っている。
ナギサがこのまま兄に連れて行かれれば、二度と戻ってこられないのではないか――そんな本物の恐怖が、その声に滲んでいた。



