イツキの放った言葉が、あの地下駐車場での記憶を鮮烈に呼び覚ます。
あの時、天城の使者は確かに言っていた。白鷺は過去に一度潰れかけている、と。そして、天城が資金も人も全て止めて『あの孤児院』の処理を止めたのだ、と。
点と点が、ナギサの脳内で恐ろしい速度で結びついていく。
「……イツキさん」
ナギサは椅子の背から身体を離し、僅かに前傾姿勢になった。
画面の向こうの相手を観察するように、イツキの表情の微細な変化を逃さず捉えようと神経を研ぎ澄ませる。
「あの時、天城の使者を捕まえた時に奴はこう言いました。『天城が流れを止めた。資金も、人も、全部な』って。……つまり、しろさぎ孤児院を実質的に運営し、そして最後に『事件』を起こして消滅させた黒幕は、天城家だったということですか?」
イツキは眉一つ動かさず、ただ静かにナギサの分析を促すように視線を返した。
「半分正解で、半分は違う。天城はあくまで『処理』をした側に過ぎない。……だが、奴らがその過程で、孤児院で行われていた白鷺家の『最高機密』のデータを奪い去ったのは事実だ」
「最高機密……」
「白鷺家が世界を裏から支配するために育成していた、絶対に壊れない、従順な『駒』の製造ライン。それが、あの孤児院の本当の姿だ。一度は破綻し、天城の手によって闇に葬られたはずのその研究を、天城朔春はミアお嬢様との婚姻を機に、白鷺の利権ごと完全に我が物として再開しようとしている」
イツキの眼鏡の奥の瞳が、冷徹極まりない光を放った。
「白鷺の上層部は、天城に過去の弱みを握られているが故に、この婚姻を拒めない。だから、俺が動くしかなかった。白鷺の意志に背いてでもな。まさか、お前達が佐倉の嫡男を巻き込んで、『偽装恋人』という無理な行動に出るとは思わなかったが。とにかく、あの婚姻だけは絶対に阻止しなければならなかったんだ」
(なるほど……合点がいった。これはただの政略結婚じゃない。最初から相手の『ハメ技』が完成しかけている状態なんだ)
ナギサは小さく息を吐き出し、自分の両手を見つめた。
優秀な子供を選ぶための場所。
問題ばかり起こして、何度罰を受けても従順になれなかった自分。
そして、そんな自分を見下ろして『この子はまだ耐えます』と言った大人の声。
「イツキさん。もう一つ、聞かせてください」
ナギサの声から、迷いが消えていた。
自分の過去がどうあれ、今やるべき「最善の行動」が見えつつある。
「天城が狙っているその『研究データ』……あるいは、その実験の『完成形』って……」
そこまで言い掛けて、ナギサは言葉を止めた。
いや、言う必要はなかった。イツキの視線が、ナギサの包帯が巻かれた右手に一瞬だけ落ちたからだ。
「……お前の推測通りだ、ナギサ。天城が今一番欲している『最大のイレギュラー』。それこそが、記憶を消されてなお、お嬢様の元へと引き寄せられた、八人目の執事であるお前自身だ」
イツキは何かを知っている。もう予感ではない、確かに彼は知っているのだ。
あの時、天城の使者は確かに言っていた。白鷺は過去に一度潰れかけている、と。そして、天城が資金も人も全て止めて『あの孤児院』の処理を止めたのだ、と。
点と点が、ナギサの脳内で恐ろしい速度で結びついていく。
「……イツキさん」
ナギサは椅子の背から身体を離し、僅かに前傾姿勢になった。
画面の向こうの相手を観察するように、イツキの表情の微細な変化を逃さず捉えようと神経を研ぎ澄ませる。
「あの時、天城の使者を捕まえた時に奴はこう言いました。『天城が流れを止めた。資金も、人も、全部な』って。……つまり、しろさぎ孤児院を実質的に運営し、そして最後に『事件』を起こして消滅させた黒幕は、天城家だったということですか?」
イツキは眉一つ動かさず、ただ静かにナギサの分析を促すように視線を返した。
「半分正解で、半分は違う。天城はあくまで『処理』をした側に過ぎない。……だが、奴らがその過程で、孤児院で行われていた白鷺家の『最高機密』のデータを奪い去ったのは事実だ」
「最高機密……」
「白鷺家が世界を裏から支配するために育成していた、絶対に壊れない、従順な『駒』の製造ライン。それが、あの孤児院の本当の姿だ。一度は破綻し、天城の手によって闇に葬られたはずのその研究を、天城朔春はミアお嬢様との婚姻を機に、白鷺の利権ごと完全に我が物として再開しようとしている」
イツキの眼鏡の奥の瞳が、冷徹極まりない光を放った。
「白鷺の上層部は、天城に過去の弱みを握られているが故に、この婚姻を拒めない。だから、俺が動くしかなかった。白鷺の意志に背いてでもな。まさか、お前達が佐倉の嫡男を巻き込んで、『偽装恋人』という無理な行動に出るとは思わなかったが。とにかく、あの婚姻だけは絶対に阻止しなければならなかったんだ」
(なるほど……合点がいった。これはただの政略結婚じゃない。最初から相手の『ハメ技』が完成しかけている状態なんだ)
ナギサは小さく息を吐き出し、自分の両手を見つめた。
優秀な子供を選ぶための場所。
問題ばかり起こして、何度罰を受けても従順になれなかった自分。
そして、そんな自分を見下ろして『この子はまだ耐えます』と言った大人の声。
「イツキさん。もう一つ、聞かせてください」
ナギサの声から、迷いが消えていた。
自分の過去がどうあれ、今やるべき「最善の行動」が見えつつある。
「天城が狙っているその『研究データ』……あるいは、その実験の『完成形』って……」
そこまで言い掛けて、ナギサは言葉を止めた。
いや、言う必要はなかった。イツキの視線が、ナギサの包帯が巻かれた右手に一瞬だけ落ちたからだ。
「……お前の推測通りだ、ナギサ。天城が今一番欲している『最大のイレギュラー』。それこそが、記憶を消されてなお、お嬢様の元へと引き寄せられた、八人目の執事であるお前自身だ」
イツキは何かを知っている。もう予感ではない、確かに彼は知っているのだ。



