雨は嫌いですか、私は好きです

 膝の上で指先を軽く握る。無意識に少しだけ力が入った。

(……分からない)

 小さく息を吐くと、それまであった静けさがより一層強まった気がした。
 どれだけ深く考えても、自分が求める答えは出てこない。
 それなのに、どうしてこんなにも一晴に避けられることが引っ掛かるのか。
 どうしてこんなに、一晴の不自然な態度が気になるのか。
 視線を逸らされたことも。
 呼び止めても止まってくれなかったことも。
 いなくなった後の、あの心が空っぽになったような感覚も。全部が、頭の中に残り続けている。
 いつもなら、こんなふうに考え続けたりしないのに。少し時間が経てば、きっと忘れているはずなのに。

(……なんで、こんなに)

 そこまで考えて、ふと気付く。
 自分が思っていたよりも、ずっと一晴のことを気にしていることに。
 朝も、昼も、授業中も。無意識に、何度も視線を向けていた。
 目が合えば、少しだけ安心して。
 逸らされれば、違和感を覚えて。
 教室で掃除をしていた時だって、見かけた瞬間、考えるより先に追いかけていた。

「あっ……」

 息が止まって、胸の奥が僅かに強く脈打つ。
 理由は分からないままなのに、その行動だけがはっきりと残っている。

(……私)

 言葉の続きを上手く出せない。形にしようとすると、何処かで躊躇ってしまう。
 けれど、もう気付いてしまった気がした。
 ただのクラスメイトだから、では説明がつかない。
 ただ話す相手だから、では足りない。
 こんな風に気になる理由が、他に思いつかない。
 胸の奥に残っていた冷たい感覚の中に、ほんの少しだけ違う熱が混ざる。戸惑うような、でも確かにそこにあるもの。
 雨音は、ゆっくりと視線を落とした。膝の上で重ねた手を、じっと見つめる。

「……好き、とか」

 小さく浮かんだ言葉に、自分で少し驚く。
 すぐに否定しようとして、けれど上手くできなかった。
 代わりに、さっきの視線や、背中や、声が思い出される。それを追いかけた自分の姿も。
 否定するには、どれもはっきりしすぎていた。
 夕焼けの色が少しだけ濃くなる。
 風がまた、木の葉を揺らす。その音を聞きながら、雨音は小さく目を伏せた。
 胸の奥でまだ名前をつけきれない感情が、静かに形を持ち始めていた瞬間だったのだ。