雨は嫌いですか、私は好きです

 休憩所の屋根の間から空を見上げる。屋根で半分ほどが埋まる視界には、絵の具を溢したような夕焼けが広がっていた。
 オレンジ色に染まった空が、ゆっくりと色を変えながら遠くまで続いている。
 雲の輪郭が淡く光っていて、何処か穏やかな景色だった。

(……なんで)

 浮かんだ考えの続きは声にならないまま、胸の奥で形になる。
 何か、変だった。
 今日の一晴は、明らかにおかしかった。
 目が合っても逸らす。
 話し掛けても、気付かないフリをする。
 そして、逃げるように目の前からいなくなる。
 あの一瞬の視線。確かに合ったはずなのに、次の瞬間にはなかったことにされたように逸らされた。
 それらを一度考えると、どうしても頭から離れない。

(私、何かした……?)

 朝の教室、授業中の視線、昼休みのこと、昨日のこと。
 帰り道、公園での会話、あの時の空気。
 一つ一つ、思い返しながら記憶を辿っていく。
 けれど、思い当たることは何もなかった。何かを言った覚えも、嫌なことをした記憶もない。少なくとも、自分ではそう思う。
 ただ、胸の奥に少しだけ冷たいものが残っていた。
 じわりと広がるような、消えない感覚。昨日この場所で感じた温かさとは、まるで違う感覚だった。
 同じ場所にいるはずなのに。
 隣に誰もいないだけで、こんなにも違って感じるのかと、ぼんやりと思った。

(……なんで、避けるの)

 もう一度、心の中で問い掛ける。
 答えが返ってくるはずもないのに、繰り返してしまう。
 何かきっかけがあったはずだ。自分が気付いていないだけで、何処かで何かを間違えたのかもしれないと。
 例えば、昨日の公園での会話
 あの時の自分は、何か変なことを一晴に言ったのではないだろうか。
 一晴の言葉や、少し笑った顔。
 雨の音に紛れながら交わした、いくつかの遣り取り。
 けれど、何処をどう切り取っても、何を思い出しても、特別おかしなところは見つからない。

(……じゃあ、今日?)

 今日あったことといえば、ホームルームで一晴のいいところを褒める会があったことと、昼休みに凌と話していたことくらい。
 ホームルームでの彼は、普段通りの人気者で雨音の目には映っていた。何ら変わった様子はなかったように思う。
 となれば、廊下で凌と二人で話していたことが残るわけだが。
 廊下で犬を見ながら何気ない会話していただけ。楽しくて、少しだけ気が緩んでいた時間でしかなかったはず。
 それが一晴に避けるられる理由になるとは到底思えないけれど。

「まさか……っ」

 凌と話していたその時、一晴は近くにいたんだろうか。
 見られていた?
 聞かれていた?
 ふと、そんな考えが浮かぶ。それと同時に、胸の奥が僅かにざわついた。

(……それで?)

 もしそうだとして、どうして避ける理由になるのかは分からない。
 凌と話していたから?
 それだけで?
 考えれば考えるほど、分からなくなる。理由が見つからないまま、疑問だけが残った。