その言葉は、本当に何気ない調子だった。
「あ」
凌がふと小さく声を上げた。
さっきまで笑っていた表情のまま、視線だけが廊下の窓の外へ向いている。
雨音は少しだけ首を傾げた。
「どうしたの?」
そう聞くと、凌は窓の外を指さした。
そこには、校庭の隅のフェンスのところで尻尾を振っている一匹の犬が見えた。
近所の家の犬なのか、昼休みになるとよく学校の外をうろうろしている犬だ。
「あいつ毎日来るんだよ。昼になると」
雨音も窓の外を見た。
茶色い毛並みの、小さな犬。
フェンスの向こう側で、誰かが投げたのか小枝を追いかけて走っている。
短い足で一生懸命に走り回り、ときどきぴょんと跳ねるようにして方向を変える。
「本当だ」
思わず小さく声が漏れた。
今まで気づいたことがなかった。昼休みの校庭の隅に、こんな風景があったなんて。
「本当の名前は知らないけど、俺達はぴょん助って呼んでる」
「可愛い」
「ぴょんぴょん飛ぶから、ぴょん助」
凌は少し楽しそうに言った。
その呼び方が、もうずっと前から決まっていたあだ名みたいに自然で、雨音は少しだけ笑った。
「……ぴょん助」
小さく呟いてみる。
するとちょうどその瞬間、犬がぴょんと跳ねた。まるで自分の名前を呼ばれたみたいに。
その様子が可笑しくて、雨音は思わず目を細める。
凌は腕を組みながら窓の外を眺めていた。
「ああいうの見てると和むよねぇ」
犬はまた小枝を追いかけて、くるくると走り回っている。
フェンスの向こう側で、楽しそうにぐるぐると回るその姿は無邪気そのもの。
「俺、結構好きなんだ」
何気ないその言葉が、廊下の静かな空気の中に落ちた。
それは、今までの会話の延長みたいに自然で、特別な意味なんて何も含まれていないように聞こえる。
その瞬間、少し離れた廊下の奥で、足音が止まった。けれど雨音も凌も、それには気付かなかった。
窓の外を見ながら、雨音は小さく笑う。
「……可愛いね」
自分でも驚くほど、自然に言葉が出た。
小枝を追いかけて転びそうになりながら走る姿が、なんだか可笑しくて。
「だよね」
凌も頷く。その時、校庭の犬がぴょんと跳ねて走った。
小枝を咥えようとして、また少しだけ跳ねる。その軽い動きに合わせて、尻尾がぶんぶんと揺れていた。
それを見て、雨音は少しだけ笑う。ほん小さな、自然な笑顔だった。
誰かに見せようとして作ったものではなく、ただ可笑しくてこぼれたような笑顔。
昼の光が窓から差し込んで、廊下の床に淡い影を落としている。
その明るい空気の中で。
廊下の曲がり角の向こうで。
その声を聞いてしまった一人の男子が、静かに視線を落とした。
「あ」
凌がふと小さく声を上げた。
さっきまで笑っていた表情のまま、視線だけが廊下の窓の外へ向いている。
雨音は少しだけ首を傾げた。
「どうしたの?」
そう聞くと、凌は窓の外を指さした。
そこには、校庭の隅のフェンスのところで尻尾を振っている一匹の犬が見えた。
近所の家の犬なのか、昼休みになるとよく学校の外をうろうろしている犬だ。
「あいつ毎日来るんだよ。昼になると」
雨音も窓の外を見た。
茶色い毛並みの、小さな犬。
フェンスの向こう側で、誰かが投げたのか小枝を追いかけて走っている。
短い足で一生懸命に走り回り、ときどきぴょんと跳ねるようにして方向を変える。
「本当だ」
思わず小さく声が漏れた。
今まで気づいたことがなかった。昼休みの校庭の隅に、こんな風景があったなんて。
「本当の名前は知らないけど、俺達はぴょん助って呼んでる」
「可愛い」
「ぴょんぴょん飛ぶから、ぴょん助」
凌は少し楽しそうに言った。
その呼び方が、もうずっと前から決まっていたあだ名みたいに自然で、雨音は少しだけ笑った。
「……ぴょん助」
小さく呟いてみる。
するとちょうどその瞬間、犬がぴょんと跳ねた。まるで自分の名前を呼ばれたみたいに。
その様子が可笑しくて、雨音は思わず目を細める。
凌は腕を組みながら窓の外を眺めていた。
「ああいうの見てると和むよねぇ」
犬はまた小枝を追いかけて、くるくると走り回っている。
フェンスの向こう側で、楽しそうにぐるぐると回るその姿は無邪気そのもの。
「俺、結構好きなんだ」
何気ないその言葉が、廊下の静かな空気の中に落ちた。
それは、今までの会話の延長みたいに自然で、特別な意味なんて何も含まれていないように聞こえる。
その瞬間、少し離れた廊下の奥で、足音が止まった。けれど雨音も凌も、それには気付かなかった。
窓の外を見ながら、雨音は小さく笑う。
「……可愛いね」
自分でも驚くほど、自然に言葉が出た。
小枝を追いかけて転びそうになりながら走る姿が、なんだか可笑しくて。
「だよね」
凌も頷く。その時、校庭の犬がぴょんと跳ねて走った。
小枝を咥えようとして、また少しだけ跳ねる。その軽い動きに合わせて、尻尾がぶんぶんと揺れていた。
それを見て、雨音は少しだけ笑う。ほん小さな、自然な笑顔だった。
誰かに見せようとして作ったものではなく、ただ可笑しくてこぼれたような笑顔。
昼の光が窓から差し込んで、廊下の床に淡い影を落としている。
その明るい空気の中で。
廊下の曲がり角の向こうで。
その声を聞いてしまった一人の男子が、静かに視線を落とした。



