雨は嫌いですか、私は好きです

 凌が嘘を吐いていると思ったことなどないのに、嘘であってほしかったと思ってしまった。
 嘘であったなら、きっと一晴に向ける視線に憐憫なんて混ざらなかっただろうから。

「その時、思ったんだよ」

 一晴は小さく笑う。けれど、その笑いはとても軽いものには見えなかった。

「俺、これだけ頑張ってんのに駄目なんだって」

 勉強も。
 運動も。
 ちゃんとやっていた。

「でも、それでも“つまらない人間”なんだって」

 ぽつりと落ちる言葉は、雨音を絶望の淵へと容易に陥れる。

「じゃあさ、どうすればいいんだろうって思わない?」

 雨音は何も言えなかった。到底、過去の一晴が行き着いた答えになど、雨音が辿り着けるはずがなかったから。
 引き攣った表情を浮かべる雨音を見て、一晴は少し肩を揺らして笑った。

「結論は簡単だったよ。真面目にやって嫌われるなら、真面目にやらなきゃいい」

 クラスで騒ぐようになった。
 誘われた遊びにも行くようになった。
 馬鹿なこともするようになった。

「そしたらさ、皆普通に話してくれるようになったんだ」

 明るい奴。
 面白い奴。

「ノリが良くてよく笑う補習常習犯。クラスでの俺はそういう扱いになった」

 そこまで言って、一晴は俯いて少し黙った。そして、ぽつりと呟く。

「……まあ、壊れただけなんだけど」

 雨音は思わず顔を上げた。鏡を見ずとも自分でも分かるくらい、見るに耐えない表情をしている。
 歪んだ雨音の顔を見ても、一晴は貼り付けた笑みを崩すことはなかった。

「そんなの……そんなの、酷いです」

 ただ、周りに認めてもらうために頑張っていただけ。勉強も運動も、一生懸命頑張っていただけではないか。
 それなのにどうして、“つまらない”と言われなければならない。
 どうして周りの人間は、一晴を自身を偽ってまで周りに合わせないと生きられなくさせてしまったのだろう。
 考えれば考えるほど、雨音には理解できなかった。

「成瀬さんは——」
「いいんだよ」

 一晴は静かに雨音の言葉を遮り、そしてゆっくりと首を振った。

「小森さんが気にすることじゃない」
「でも……」
「俺が勝手にやったことだし」

 それ以上、雨音の言葉は続かなかった。否、続けられなかったのほうが正しい。