雨は嫌いですか、私は好きです


「……あの」

 小さく声を絞り出すと、一晴の向ける視線に鋭さが宿った。逃げ場のない、真っ直ぐな視線。
 雨音はそんな視線に貫かれながら、一度だけ深く息を吸った。

「今日の昼休み……藤代君と、話をしました」

 一晴の表情が、ほんの僅かに動いた。けれど、何も言わない。
 雨音は視線を落としたまま続ける。

「その時、成瀬さんのことを少し聞いてしまって」

 屋根の上で、雨が強く音を立てた。
 沈黙が、二人の間に落ちる。
 その静かな空気の中で、何かが、ほんの少しだけ動き始めているようだった。 
 一晴はすぐには何も言わない。ただ、少しだけ視線を落として、ベンチの足元を見つめている。
 やがて、一晴は短く息を吐いた。

「……あー」

 困ったような、少し照れたような声だった。

「やっぱ凌か」
「はい……」

 雨音は小さく頷き、消え入るような声で返事をする。 
 一晴は後頭部を掻きながら、苦笑いを浮かべた。

「そっか。あいつ、話したんだ」

 怒っている様子はなかった。けれど、何処か諦めたような響きが混じっている。
 少しの沈黙の後、一晴はぽつりと言った。

「……つまんない奴だったんだよ、俺」

 その言葉に、雨音の肩がびくりと揺れる。
 つまらない奴。
 その言葉は、今や雨音の胸の奥に深く蔓延る呪いになっていた。
 俯いて冷や汗を浮かべる雨音の隣で、一晴は屋根の外の雨を見ながら続ける。

「中学までの俺さ。ほんと、面白くない人間だった」

 笑わない。
 遊ばない。
 人ともあまり関わろうとしない。

「勉強して、部活して、それだけ」

 肩を竦めて、前屈みになった勢いのまま顔を伏せる。

「別に苦じゃなかったんだけどね。俺はそれでいいと思ってたし」

 雨が地面を叩く音が少し強くなった。
 そんな雨音にすら負けない一晴の声は、はっきりとした輪郭を保ったまま雨音の耳に届く。

「でもさ、言われちゃったんだ。つまらないって」

 それはあまりにも小さく、それでいて優しい声で。
 雨音の目の奥がじんと熱くなるくらい、聞いていて苦しいもので。

「一緒にいても面白くないって」

 雨音の胸が、ぎゅっと締め付けられる。