雨は嫌いですか、私は好きです

 さっきまでよりも少しだけ強くなっているらしく、ぽつぽつというより、ぱたぱたと細かな音が続いている。

「なんか久しぶりだな」

 一晴が屋根の向こう側に見える灰色の空を見上げながら言った。

「地元なのに、こんな公園があるなんて知らなかったです」
「晴れの日でも人が少ないんだ。穴場ってやつ」

 住宅街の中にひっそりと佇む公園。確かに、あまり人が寄り付かない静けさがある。
 正方形のベンチに手を着き、一晴は屋根を見上げて独り言のように呟いた。

「帰り道、なんとなく寄ることあるんだよ」

 誰に聞かせるでもない独り言。けれど、雨音は小さく頷いた。

「……落ち着きますね」
「でしょ?」

 首だけ動かして雨音を見た一世の顔には笑顔が浮かぶ。少しだけ嬉しそうな声だった。
 それから二人は、ぽつぽつと他愛のない話をした。
 今日の授業のこと。
 数学のプリントが思ったより多かったこと。
 クラスの誰がまた先生に怒られていたとか。
 そんな、本当にどうでもいい話。けれど、二人で並んで話していると、時間は静かに流れていった。

「雨、止まないなぁ……」

 やがて、会話がふっと途切れる。どちらからともなく、言葉が止まった。
 屋根に当たる雨の音だけが静かに続く。
 何をするでもない時間。けれど、不思議と居心地の悪い沈黙ではなかった。

「……ねえ」

 不意に、沈黙を打ち破るように一晴が声を出した。
 雨音は顔を上げる。一晴が浮かべるのは、さっきまでの気の抜けた表情ではなかった。
 少しだけ真面目な顔をして、雨音を見ている。

「今日の小森さん、ちょっと変だよ」

 どきりと、胸が大きく跳ねた。

「え……?」
「なんかさ」

 一晴は少し言葉を探すように視線を泳がせる。
 うーんと唸りながら目を閉じ、必死に感じる違和感の正体を暴こうとしていた。

「いつもより静かだし、さっきから俺のことめっちゃ見てるし」
「そ、そんなこと……」
「あるって」

 きっぱりと言われてしまい、雨音の視線は再び膝の上に向かう。その傍らで、一晴は小さく首を傾げた。

「何かあった?」

 その問い掛けは、思ったよりも真っ直ぐだった。
 誤魔化そうと思えば、いくらでも出来る。適当な理由をつけて笑えば、それで終わる。きっと、一晴もそれ以上は聞かない。
 けれど、雨音はもう分かっていた。

(……隠せない)

 昼休みのこと。渡り廊下で聞いた話。凌の静かな声。

『俺の知ってる中学までの成瀬はさ、あんな奴じゃなかったんだ』

 笑わない一晴。誰とも関わらない一晴。完璧で、真面目で、それでも「つまらない」と言われた一晴。
 
『小森さんといるとさ、ありのままでいられるんだよね』

 あの帰り道の言葉。
 全部が頭の中で重なっていき、胸の奥が静かに苦しくなった。
 雨音は膝の上で、ぎゅっと手を握る。その手は、少しだけ震えていた。